ぼくらは群青を探している
「ちょっとな、海岸の煙草が目についたもんで」
ちらと、ピンクブラウンの髪の隙間から、蛍さんはゴリラを睨む。ゴリラは怯んだように数歩後ずさった。
「……桜井と雲雀は、群青じゃねーだろ。なんでアンタが出て来る」
「だから言ってんだろ、ちょっと煙草が目についたんだ、ってな!」
学ランが翻るのとその足がゴリラを吹っ飛ばすのと、どちらが早かったか。少なくとも私には分からなかったし、ゴリラが倒れる横では、桜井くんと雲雀くんも我に返ったようにゴリラの仲間を吹っ飛ばしていた。
私と荒神くんの前では、ゴリラが呻いていた。蛍さんがゴリラを蹴っ飛ばした衝撃で、そのポケットからは携帯電話やら煙草のケースやらが落ちて砂浜の上に転がり、無残に波に襲われている。
波が引くのと一緒に、黒い携帯電話とエメラルドグリーンの煙草の箱が海にさらわれてしまいそうになったところを、蛍さんはなぜか煙草の箱だけを拾い上げた。更に吸殻を拾い上げると――倒れているゴリラの口に砂ごと押し込んだ。
「モガッ……」
「おーし、ちゃんと灰皿に入ったな」
煙草の箱は親の仇かと思うほど強く握りしめ――いやもはや握り潰し、蛍さんは桜井くんと雲雀くんに視線を遣る。二人の近くにはゴリラの仲間が二、三人が転がっていたし、残りの仲間は、歩道に残っていた人も含めて逃げ出していた。
「……んで、お前らなにやってんだ。特に桜井、上半身裸で。夏じゃねーんだぞ」
「ビーチバレーやってたの!」
「なんの答えにもなってねーよ」
蛍さん達が話している間に、荒神くんの背中から歩道を見上げた。蛍さんとやってきたもう一人はバイクに跨ったままで、顔がよく見えない。ただ蛍さんより背が高く、髪は黒かった。
「……そういうアンタこそ、何しにきたんだ」
「本当に可愛くねーな、コイツ。休日のお出かけだよ、お出かけ」
「No.1とNo.2が揃って? デートでもしてんのか?」
雲雀くんが示したのは、歩道の上のバイクの人だった。No.2――ということは、この間荒神くんが言っていた「能勢芳喜」だろう。そうだとすれば、背が高いというのは聞いているとおりだ。
「そういうこともある。なあ、三国英凜?」
蛍さんの目が私を見た。この間、一年五組の教室で話したときの私の回答を反芻されているのは分かったけれど、それが何を意味するのかは分からなかった。なんなら名前を伝えた覚えはなかったのだけれど、それくらいは誰かに聞けば分かることだろうし、特に気にする要素ではなかった。
「……アンタへの貸しは一つだとしても、俺らは群青に入んねーぞ」
ちらと、ピンクブラウンの髪の隙間から、蛍さんはゴリラを睨む。ゴリラは怯んだように数歩後ずさった。
「……桜井と雲雀は、群青じゃねーだろ。なんでアンタが出て来る」
「だから言ってんだろ、ちょっと煙草が目についたんだ、ってな!」
学ランが翻るのとその足がゴリラを吹っ飛ばすのと、どちらが早かったか。少なくとも私には分からなかったし、ゴリラが倒れる横では、桜井くんと雲雀くんも我に返ったようにゴリラの仲間を吹っ飛ばしていた。
私と荒神くんの前では、ゴリラが呻いていた。蛍さんがゴリラを蹴っ飛ばした衝撃で、そのポケットからは携帯電話やら煙草のケースやらが落ちて砂浜の上に転がり、無残に波に襲われている。
波が引くのと一緒に、黒い携帯電話とエメラルドグリーンの煙草の箱が海にさらわれてしまいそうになったところを、蛍さんはなぜか煙草の箱だけを拾い上げた。更に吸殻を拾い上げると――倒れているゴリラの口に砂ごと押し込んだ。
「モガッ……」
「おーし、ちゃんと灰皿に入ったな」
煙草の箱は親の仇かと思うほど強く握りしめ――いやもはや握り潰し、蛍さんは桜井くんと雲雀くんに視線を遣る。二人の近くにはゴリラの仲間が二、三人が転がっていたし、残りの仲間は、歩道に残っていた人も含めて逃げ出していた。
「……んで、お前らなにやってんだ。特に桜井、上半身裸で。夏じゃねーんだぞ」
「ビーチバレーやってたの!」
「なんの答えにもなってねーよ」
蛍さん達が話している間に、荒神くんの背中から歩道を見上げた。蛍さんとやってきたもう一人はバイクに跨ったままで、顔がよく見えない。ただ蛍さんより背が高く、髪は黒かった。
「……そういうアンタこそ、何しにきたんだ」
「本当に可愛くねーな、コイツ。休日のお出かけだよ、お出かけ」
「No.1とNo.2が揃って? デートでもしてんのか?」
雲雀くんが示したのは、歩道の上のバイクの人だった。No.2――ということは、この間荒神くんが言っていた「能勢芳喜」だろう。そうだとすれば、背が高いというのは聞いているとおりだ。
「そういうこともある。なあ、三国英凜?」
蛍さんの目が私を見た。この間、一年五組の教室で話したときの私の回答を反芻されているのは分かったけれど、それが何を意味するのかは分からなかった。なんなら名前を伝えた覚えはなかったのだけれど、それくらいは誰かに聞けば分かることだろうし、特に気にする要素ではなかった。
「……アンタへの貸しは一つだとしても、俺らは群青に入んねーぞ」