ぼくらは群青を探している
 三国英凜が桜井昴夜と雲雀侑生と仲良くしているという情報は、いわば公知の事実であって、わざわざ探るまでもないことだ。


「なあ三国英凜、気を付けな」


 蛍さんの声が、不気味に忠告する。


「俺は、今年の新入生代表の三国英凜が、桜井と雲雀と仲良くやってるって話を、まったく求めてもないのに聞かされた」

「……桜井くんと雲雀くんのことを知ってる人は、それと同じくらい私の存在を――ご丁寧にフルネームまで含めて、認識しているってことですよね」

「そういうこと。んで、どこのチームも桜井と雲雀をこぞって欲しがってる」


 お前は絶好のエサだ。――そう告げられ、心臓が鷲掴みにされたような恐怖が全身に走る。


「分かったら、コイツらとは早いうちに縁を切りな。今ならまだ、脅されてましたで済む話だ」


 ぽろりと、蛍さんの手から煙草の箱が落ちた。ゴリラの胸の上でころりと転がったそれを、蛍さんはもう一度踏みつける。呻くゴリラに構わず、蛍さんはポケットから一枚の紙きれを取り出した。

 なんなのか分からず、ただ緊張感で首を傾げることもできずに固まっていると、受け取れとでもいうように顎を動かされた。おそるおそる受け取ったそこには、11桁の電話番号が書いてある。


「もし、縁を切るつもりなら、早めに言え。そのへんの噂は、ちゃんと流してやる」


 ……その気になったら、連絡しろ、ってことか。

 その紙きれをじっと見つめる。まるでずっと渡すのを待っていたかのように、その紙きれにはところどころ皺が寄っていた。


「……で、俺は群青(ブルー・フロック)のメンバーじゃないヤツらを助けはしない。お前らがどんな目に遭おうが、知ったことじゃない」


 ふい、と蛍さんは踵を返した。きゅ、きゅ、と砂浜が鳴く。


「分かったら、群青(ブルー・フロック)に入るかどうか、ちゃんと考えな」


 桜井くんと雲雀くんは、まるで保護者に怒られてしまったかのように黙り込んでいた。蛍さんはそのまま、おそらく能勢芳喜さんの隣のバイクに乗り、揃って走り去る。能勢芳喜さんはついぞ私達に対して一言も声を掛けなかった。


「――っはー! 怖かった!」


 一番最初に声を発したのは荒神くんだった。私は呆然と突っ立ってしまっていたので、荒神くんに手を引かれて我に返り「つかここ離れよ、足下にコイツいるのコワイ」なんて言われて慌てて足を動かす。桜井くんと雲雀くんは、再び泥を落とし始めながら石階段の荷物を回収しに行く。


「……蛍さん、めっちゃ怒ってたなあ」


 ぼそりと呟いた桜井くんは、目に見えてしょんぼりとしていた。雲雀くんはティシャツを脱ぎ、バサッバサッと振るって砂を落とす。


「……あの人の噂、本当かもな」

「噂?」

「蛍さん、どっかの抗争に巻き込まれて姉貴が死んでんだと」


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