ぼくらは群青を探している
 ティシャツを着直しながら、雲雀くんはなんでもなさそうに告げた。重さのわりに、その口調は重くはなかった。


「だから三国のことがだぶってんだろ」

「あーね、俺らに巻き込まれて三国が死んじゃうかもってね」

「……それにしたって、妙に肩入れされてた気がするんだけど」

「その姉貴に三国が似てるとかなんじゃねーの? 分かんねーけど」


 荒神くんの想像を聞きながら、もう一度、手の中の紙切れを見つめた。やっぱり、ずっと渡すのを待っていたかのようなくたびれ方をしている。それこそ……、ちょうど、蛍さんに会ったあの日から、渡すタイミングを見計らっていたと言われてもしっくりくる。


「おい三国ィ、ぼーっとしてんなよ。帰るぞ」

「あ、うん……」


 でも蛍さんに肩入れされる理由はない。そうだとしたら、荒神くんのいうとおり、蛍さんの亡くなった(という噂の)お姉さんと私が似ている……のだろうか。首を捻りながら、石階段の荷物を拾い上げる。


「つか三国、なにで来たの? チャリ?」


 桜井くんはぐっしょり濡れたパーカーをかぶりながら「うへぇ、気持ち悪い」と顔をしかめた。


「うん……」

「昴夜、お前三国のこと送れ」

「えー、うーん、別にいいんだけどさ、俺と一緒に歩いてちゃまずいんじゃないの?」

「今は一人のほうがあぶねーだろ。いざとなったら三国だけチャリで逃げろ」

「俺は?」

「お前は知らねーよ」

「……雲雀くん、パーカー……」

「着とけ。帰り寒いだろ」


 それは二割も乾いていないティシャツを着ている雲雀くんのほうなのでは……バイクだし……。なんて思っていたけれど、駐車場へ行くと雲雀くんはバイクの中からジャケットを取り出した。バイクに収納スペースなんてあるんだ。


「え、まって、そんなんあるなら俺にくれればよくない? なんで俺、上半身裸でいたの?」

「忘れてた」

「ぜってー嘘じゃん! 濡れるのがイヤだったとかじゃん!」


 ギャンギャン喚く三人を見ながら、蛍さんの言葉を反芻(はんすう)する。コイツらとは早いうちに縁を切りな――その声は、表情と一緒に、音声付き写真として脳内に保存される。

 ただ、何も見えなかったときのあの体温も、記憶の中に残っていた。


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