ぼくらは群青を探している
私立灰桜高校、通称〝ハイコー〟。多分、灰高と廃校をかけているんだと思う。その通称のとおり、灰桜高校は廃校寸前といっても過言でないほど、荒れ狂った高校だったらしい。らしいというのは、手を付けられないほど荒れ狂っていたのは少し前までで、経営者が変わってからは色々改革を行い、勉強のできる真面目な生徒とできない不真面目な生徒とを選り分けた結果、なんとか玉石混交の状態まで漕漕ぎつけたからだ。つまり、今の灰桜高校は、荒れ狂ってる部分とそうでない部分とが混在しているわけだ。と。
その具体的な選り分けをどうやって行ったかというと、端的に成績とクラス分けによって行っている。灰桜高校のクラスは、特別科と普通科に分かれていて、出願のときはどちらかを選ぶことができるし、特別科を希望しても成績が悪い場合には普通科への合格とされる。入学後は、特別科と普通科はクラス替えもないし、校舎も別々だ。それでもって特別科はその名のとおり、特別な待遇もある(課外授業が充実してるとか、奨学金を貰うのに有利だとか、要は進学クラスみたいな扱いだ)。つまり、特別科と普通科は色々な側面から厳格に区分けされていて、お互いに交わらないようになっている。
それは灰桜高校を知る人にとっては共通認識で、受付をする子と親とが「普通科棟は動物園だから」なんて揶揄しているのが聞こえた。
そんな親子の後に、おばあちゃんと並んで受付前に立つ。
「……一年五組、三国英凜です」
受付を担当している(おそらく)三年生から二度見された。
「三国……、五組……?」
「五組の、三国です」
繰り返すと、三年生は「ね、三国英凜さんなんだけど……」と隣の三年生に耳打ちした。二人で名簿を覗き込み「あ、あるじゃん」「いやあるんだけどさ……」とコソコソ内緒話をする。
「……五組で、間違いないですよね?」
「間違いないです」
もう一度頷くと、コホンと三年生が咳払いした。
「……どうぞ。ご入学、代表挨拶、おめでとうございます」
胸につける花のリボンには「新入生代表」と書かれていた。五組の列に向かいながら胸につけようとすると「英凜ちゃん、不器用なんだから、こっち向きなさい」とおばあちゃんにつけられた。
体育館内では、向かって左側に特別科、右側に普通科が着席させられていた。その結果、左側は黒々としているのに反し、右側は――もちろん黒や茶もあるけれど、それよりなにより金や銀に赤や青まで、非常にカラフルにまとまりのない様相を呈していた。当然、特別科はおとなしく着席しているのに反し、普通科はざわざわとお喋りをやめず、しかも着席せずに友達同士で立って喋っている有様だった。
おばあちゃんはそんな様子を見て「あらまあ……」と困った顔をした。
「昔は男の子はボウズって決まってたんに、今時やねえ……」
「……そういう問題じゃないと思うけど」
髪型に言及するなら、どちらかというと色を問題にするべきではないか。とはいえ、戦時中のことを引き合いに出されてもうまく反論ができない。とりあえず、おばあちゃんには保護者席で大人しく座っておいてもらうことにした。
その具体的な選り分けをどうやって行ったかというと、端的に成績とクラス分けによって行っている。灰桜高校のクラスは、特別科と普通科に分かれていて、出願のときはどちらかを選ぶことができるし、特別科を希望しても成績が悪い場合には普通科への合格とされる。入学後は、特別科と普通科はクラス替えもないし、校舎も別々だ。それでもって特別科はその名のとおり、特別な待遇もある(課外授業が充実してるとか、奨学金を貰うのに有利だとか、要は進学クラスみたいな扱いだ)。つまり、特別科と普通科は色々な側面から厳格に区分けされていて、お互いに交わらないようになっている。
それは灰桜高校を知る人にとっては共通認識で、受付をする子と親とが「普通科棟は動物園だから」なんて揶揄しているのが聞こえた。
そんな親子の後に、おばあちゃんと並んで受付前に立つ。
「……一年五組、三国英凜です」
受付を担当している(おそらく)三年生から二度見された。
「三国……、五組……?」
「五組の、三国です」
繰り返すと、三年生は「ね、三国英凜さんなんだけど……」と隣の三年生に耳打ちした。二人で名簿を覗き込み「あ、あるじゃん」「いやあるんだけどさ……」とコソコソ内緒話をする。
「……五組で、間違いないですよね?」
「間違いないです」
もう一度頷くと、コホンと三年生が咳払いした。
「……どうぞ。ご入学、代表挨拶、おめでとうございます」
胸につける花のリボンには「新入生代表」と書かれていた。五組の列に向かいながら胸につけようとすると「英凜ちゃん、不器用なんだから、こっち向きなさい」とおばあちゃんにつけられた。
体育館内では、向かって左側に特別科、右側に普通科が着席させられていた。その結果、左側は黒々としているのに反し、右側は――もちろん黒や茶もあるけれど、それよりなにより金や銀に赤や青まで、非常にカラフルにまとまりのない様相を呈していた。当然、特別科はおとなしく着席しているのに反し、普通科はざわざわとお喋りをやめず、しかも着席せずに友達同士で立って喋っている有様だった。
おばあちゃんはそんな様子を見て「あらまあ……」と困った顔をした。
「昔は男の子はボウズって決まってたんに、今時やねえ……」
「……そういう問題じゃないと思うけど」
髪型に言及するなら、どちらかというと色を問題にするべきではないか。とはいえ、戦時中のことを引き合いに出されてもうまく反論ができない。とりあえず、おばあちゃんには保護者席で大人しく座っておいてもらうことにした。