ぼくらは群青を探している
「俺が話す女子くらいいくらでもいるっての」


 木を隠すなら森の中、か。そう言われると、雲雀くんと桜井くんは仲の良い特定の女子が私以外にはいないかもしれない。


「桜井くんと雲雀くんも、仲の良い女子を作ればいいんじゃないですかね」

「なんだ。アイツらがお前を気に入って連れまわしてんだと思ってたけど、お前がアイツらのこと好きなのか」


 細い眉が吊り上がり、目が丸くなる。そんなに意外なことを口にしたつもりはなかったので、つい首を傾げた。


「……まあ、クラスの男子の中では一番好きです。一緒にいて楽しいですし」

「……ふうん」

「……なんで蛍さんはあの二人と私を離したがるんですか? この間お会いしたときに言っていたとおり、あの二人と一緒にいると私が危ないとかそういうことだろうとは思うんですけど」


 そう言われるのだろうと思って先手を打てば、蛍さんは一度開きかけた口を閉じた。どうやら正解らしい。


「そんなこと言ってたら、群青(ブルー・フロック)のメンバーってみんな彼女がいないことになりません?」

「……まあね。アイツらは特別さ」

「どこのチームもこぞって欲しがってるから、特定のチームが彼らを手に入れるまでは危ないってことですか?」

「そうだな。どこのチームも、手段は選ばんだろ」

「でも蛍さんは選んでるんですね、手段」

「当たり前だろ。ほーらお前らが入らないと三国誘拐すんぞー、なんてダセェだろ」


 その言葉の選び方に、桜井くんとか荒神くんにある男っぽい(あら)さが欠けているような気がした。欠けているというか、抑えているというか。それが異性の視線や感性への気遣いからくる配慮だと考えると、蛍さんにお姉さんがいるという噂は本当かもしれない。


「……チームに入った後はどうなんですか? 仲の良い女子って危なくないんですか?」

「危ないは危ないな。桜井と雲雀でいえば、アイツらがチーム内で重宝されればされるほど、その女もチーム内で重要な位置に立つ」

「……まあ王の寵姫(ちょうき)みたいなものですね」

「あ?」

「いえ、まあ、要人(ようじん)とその奥さんって同視されますよねって話です」


 頭の中に浮かんだのは小説で読んだラブファンタジーだったけれど、要はそういう話だろう。そんなものが高校生の喧嘩でまかりとおるなんておかしな話ではあるけれど、理論上理解できない話ではなかった。


「物語だと、要人……偉くなればなるほど警護も厚くなりますけど、現実のチームでも、たとえば蛍さんの彼女は誰かが守ってるんですか?」

「俺に彼女はいないから誰も守ってねーけど、ま、メンバーの女が(さら)われたつったら、全勢力挙げてぶっ潰しに行ってやるな。俺、外道(げどう)って煙草吸うヤツよりキライなんだよ」


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