ぼくらは群青を探している
 こんなに綺麗な顔してるのに彼女いないんだ……なんて感想はさておき、桜井くんと雲雀くんの「蛍さんはカッコイイ人」という話を思い出してしまった。歯が浮くようなセリフとまでは言わないけど、こんなに堂々とそんな宣言をできる人はいないだろう。

 同時に、そんな人がトップに立つチームというものの存在に、興味に似た疑問が湧く。


「……群青(ブルー・フロック)って、なんなんですか?」


 青の群れ(ブルー・フロック)。誰がそう名付けたのかは知らないけれど、小粋(こいき)なネーミングだとは思った。なんならちょっぴり気に入った。その意味では、桜井くんの教えてくれた深緋(ディープ・スカーレット)も気に入ったけど、群青のほうが気に入ってしまうのは、もしかしたらこの蛍さんを知っているからなのかもしれない。


「なにって。ただ俺みたいなヤツが群れてるだけだ」


 それは、何のヒントでもなかった。


「だから、俺は桜井も雲雀も群青(ブルー・フロック)相応(ふさわ)しいと思ってるし」


 桜井くんと雲雀くんと、蛍さんの共通点を考える。もし、蛍さんの噂が本当なら、ある程度抽象化すれば、三人の共通点は見つけられる。何より、蛍さんが荒神くんの名前を挙げていないことがひとつのヒントだった。


「三国英凜、お前も、男だったら群青(ブルー・フロック)に誘いたかった」


 ……そういえば、この人は、噂を聞いて私の名前を知ったのだとは、一言も言わなかったな。


「……残念です、自分が男じゃなくて」

「ああ、俺も残念だよ」


 奇妙な沈黙が落ちた。私にはその奇妙さを理解することができなかったし、普段なら使える方法も、蛍さんを前には使えなかった。


「……じゃあ、私はこれで」

「ああ。桜井と雲雀と縁切りたくなったらいつでも連絡しな」

「……あれは蛍さんの携帯電話番号ということでいいんですよね?」

「ああ。ちゃんと登録したか?」

「いえ、今のところ必要ないので」

「あ、そう」

「……では」


 ぺこりと頭を下げて踵を返した後、蛍さんのいた場所を振り返れば、蛍さんはいなくなっていた。

 あの人、やっぱり私が来るのを待ってたんだろうな。

 教室へ行くと、雲雀くんは席に着いていた。でも教室内の状況は、中学生のときのそれと変わらない。みんな桜井くんと雲雀くんの存在にはすっかり慣れたというか、触らぬ神に(たた)りなし、なんならその神は意外と周囲に無関心らしいと分かったらしい。お陰で、一時期二人のことを気にして大人しくしていた他の不良くん達は思い思いに騒ぐようになった。結局、入学式に小耳にはさんだ通り、五組はすっかり動物園と化している。


「……雲雀くん、おはよ」

「……おう」


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