ぼくらは群青を探している
 もうすっかり噂になっていることだろうから構わなかったのだけれど、陽菜は律儀な反応をしてくれたらしい。


「でもそうやって噂になってんのさあ、やばくない? ほら、中学のときのアイツ覚えてる? 名前忘れちゃったけど、ずっと金髪だったのに夏休み明けに急に茶髪になってたヤツ」

「ああ、うん」

「アイツ、彼女できたから不良やめるんだーって言ってたらしいんだよね。そういう感じなんじゃないの?」

「あー……うん、多分……」


 そういう感じ、というのは、正確にいえば雲雀くんや蛍さんが言っていたことと同じで、彼らにとっては自分にとっての特別な女子が弱味になる、つまりその特別な女子の身に危険が及んでしまうということだろう。

 こうも各方面から言われるとさすがに危機感も芽生(めば)えてこなくはない。とりあえず携帯電話は肌身離さずおくことに決めた。


「それで、その群青(ブルー・フロック)の人はなんて言ってたの」

「えー、なんだったかな。英凜がどんな人か聞かれて、めっちゃ真面目でめっちゃ頭が良いみたいな話はしといた」

「……それで納得されたの?」

「いや全然。なんか『桜井ってそういう女が好みだっけ?』って言いながらどっか行った。あとそうじゃない人からもなんか英凜の話聞かれて――」


 話の途中で担任の先生が入って来たので、陽菜は口を閉じ、私達は座席に戻る。私達は五組で辛うじて担任の先生というものに注意を払う生徒だ。

 その担任の先生は、席に着かない生徒に「ほら、座れー」と簡単に注意をした後、わいのわいのとまだ喋り続ける生徒を無視して「今週は松の木の剪定(せんてい)があるから正門を通るときに注意するように……」と連絡事項を口にする。


「最後、実力テストの結果が返ってきたから順番に取りにくるように」


 そういえばそんなのあったな。出席番号順に返されるので、序盤に返された陽菜が「うげっ!」と顔を(ゆが)めている。でもみんなテストの結果なんてものに興味はないので、テストの結果は笑い声と一緒に早速紙飛行機になって飛んでいる。

 そんな中、桜井くんはテスト結果を暫く凝視(ぎょうし)した後、目を輝かせて――こちらを向いた。


「三国! 見て! 俺、数学ビリから五十番目!」


 微妙……! いや悪いは悪いのだけれど、一方で桜井くんからしたらいいのかもしれないけど、ビリから五十番目が一体どのくらいのレベルに位置づけられるのか分からない。少なくとも実力テストは中学数学の復習だったので、中学数学がろくに身についてないことは分かる。なんなら数学は五十分間鉛筆を転がしていたと言っていたので、それはただの偶然の結果だ。


「よかっ……たね……?」

「よかったー! もー、父さんが俺の成績表見るたびにショック受けてたからさー」


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