ぼくらは群青を探している
「すげー……俺の三角形何個入るんだろ」
「英語と数学満点かよ。すげーな」
「数学は雲雀くんと同じじゃん」
「数学はそりゃな」
桜井くんはそのまま私の机に両手と顎をついて居座り「いいなー、俺も頭良く生まれたかったなー」とゆらゆら揺れる。先生は残りの数人にテストの結果を返すと、そさくさと出て行った。
「つか三国、マジでお前普通科にいていいのか?」雲雀くんは一ヶ月前とそう変わらない声音で「特別科にいたほうが進学有利じゃね」
「……でも」
「三国は普通だもんな」
桜井くんのその相槌が冗談半分であることくらい分かっていたけど。
「……うん」
時間が経つと深みに嵌るぞ――あの時の蛍さんの様子を思い出す。
もう遅い。多分、蛍さんが私に忠告してくれたのは、ほんの少し手遅れだった。もう私は、二人の傍にいる心地のよさに、段々と溺れて始めている。
その昼休み、二人は珍しく外に出て行こうとしなかった。陽菜は少し警戒しながら私の席の前に座ったものの、二人が「でさー、なんか新しい小麦? かなんかを使うからクッキー生地がサクサクになってて。店長とめっちゃウマ!って言いながら食った」「太るぞ」「そう、あのクッキー生地ってめっちゃカロリー高いんだよな」とまるで女子のような話をする様子にその大きな目をぱちくりさせる。
「あの二人、いつもあんな話してんの? かわいいかよ」
「んー、うん、なんか最近、桜井くん、ドーナツ屋でバイト始めたらしくて」
「かわいいかよ。いやあたしは雲雀派だけど」
そういえばクラスの女子には桜井派と雲雀派という好みの派閥があるらしい。陽菜から聞いて知った。
「でもなあ、雲雀ってなんかガード堅そうなんだよな」陽菜は声を潜めたまま「ほら、なんか昔から片想いしてる相手がいるとかさあ、そういう設定がありそうな見た目なんだよな」
「設定がありそうな見た目って、そんなのある」
「あるっしょ。いやまあ、いいんだけどね、ただの推しだし。てかそういう設定があってほしい、あの雲雀がめっちゃ気を許す幼馴染がいるみたいな」
「漫画のキャラなのかな」
「そういうとこある」
その教室の扉がバンッと勢いよく開けられた。何事かと思って振り向くと――そこにはツインテールの美少女が立っていた。
そう、美少女だ。ぱっちりした目にふさふさの睫毛に、白い肌。ダークブラウンのツインテールはサラサラで、まるでその子のために作られた髪型であるかのように似合っていた。一言でいうなら、将来への可能性しか秘めていなさそうな美少女だ。
その美少女はキャラメル色のセーターからわずかに覗く短いスカートを翻しながらつかつかと教室の中に入ってきて――バンッと桜井くんと雲雀くんの机を叩いた。
「英語と数学満点かよ。すげーな」
「数学は雲雀くんと同じじゃん」
「数学はそりゃな」
桜井くんはそのまま私の机に両手と顎をついて居座り「いいなー、俺も頭良く生まれたかったなー」とゆらゆら揺れる。先生は残りの数人にテストの結果を返すと、そさくさと出て行った。
「つか三国、マジでお前普通科にいていいのか?」雲雀くんは一ヶ月前とそう変わらない声音で「特別科にいたほうが進学有利じゃね」
「……でも」
「三国は普通だもんな」
桜井くんのその相槌が冗談半分であることくらい分かっていたけど。
「……うん」
時間が経つと深みに嵌るぞ――あの時の蛍さんの様子を思い出す。
もう遅い。多分、蛍さんが私に忠告してくれたのは、ほんの少し手遅れだった。もう私は、二人の傍にいる心地のよさに、段々と溺れて始めている。
その昼休み、二人は珍しく外に出て行こうとしなかった。陽菜は少し警戒しながら私の席の前に座ったものの、二人が「でさー、なんか新しい小麦? かなんかを使うからクッキー生地がサクサクになってて。店長とめっちゃウマ!って言いながら食った」「太るぞ」「そう、あのクッキー生地ってめっちゃカロリー高いんだよな」とまるで女子のような話をする様子にその大きな目をぱちくりさせる。
「あの二人、いつもあんな話してんの? かわいいかよ」
「んー、うん、なんか最近、桜井くん、ドーナツ屋でバイト始めたらしくて」
「かわいいかよ。いやあたしは雲雀派だけど」
そういえばクラスの女子には桜井派と雲雀派という好みの派閥があるらしい。陽菜から聞いて知った。
「でもなあ、雲雀ってなんかガード堅そうなんだよな」陽菜は声を潜めたまま「ほら、なんか昔から片想いしてる相手がいるとかさあ、そういう設定がありそうな見た目なんだよな」
「設定がありそうな見た目って、そんなのある」
「あるっしょ。いやまあ、いいんだけどね、ただの推しだし。てかそういう設定があってほしい、あの雲雀がめっちゃ気を許す幼馴染がいるみたいな」
「漫画のキャラなのかな」
「そういうとこある」
その教室の扉がバンッと勢いよく開けられた。何事かと思って振り向くと――そこにはツインテールの美少女が立っていた。
そう、美少女だ。ぱっちりした目にふさふさの睫毛に、白い肌。ダークブラウンのツインテールはサラサラで、まるでその子のために作られた髪型であるかのように似合っていた。一言でいうなら、将来への可能性しか秘めていなさそうな美少女だ。
その美少女はキャラメル色のセーターからわずかに覗く短いスカートを翻しながらつかつかと教室の中に入ってきて――バンッと桜井くんと雲雀くんの机を叩いた。