ぼくらは群青を探している
「ねえっ、実力テストの一番、五組って聞いたんだけど!」


 例えば、小説の中では綺麗な声を「鈴のような声」というけれど、きっとこの子の声はそれだった。そういう、可愛らしい声だった。


「え、雲雀の幼馴染かな?」


 陽菜が興奮気味に言った。本当に雲雀くんをアイドルかなにかだと思っているらしい。

 でも雲雀くんは無視して菓子パンを頬張り続け、代わりに桜井くんが「(ゆう)()じゃねーよ。そこの三国」と私を差し出した。美少女の大きな目が私に向けられ――「あーっ! また負けたんだ、じゃあ!」とその綺麗な眉を跳ね上げた。


「ね、三国さんだよね? 三国英凜さん」そのまま美少女は私の机に手をかけて座り込み「くやしい……。代表挨拶負けたから、実力テストで負けるもんかって思ってたのに……」とまるで小動物のような行動をする。


「あ、あたしね、牧落(まきおち)胡桃(くるみ)。ああ、理事長はね、うちのおじーちゃん。同じ牧落でしょ」


 理事長の名前なんて見た覚えはなかったから気にしたことはなかったのだけれど、言われて記憶を探れば、校舎内に貼ってある学校案内広告が浮かんだ。その案内の左下に写真と一緒に「理事長」と書いてある。もう少し頑張れば名前も思い出せる気がしたけれど、わざわざそんなことをする必要はなかった。この牧落さんが祖父だというのならそうなのだろう。


「……どうも」

「えー、てかめっちゃ可愛くない? これで頭が良いとかズルじゃない?」


 いや、あなたみたいな美少女に可愛いなんて言われましても。いうなればそれは、鶴が白鷺(しらさぎ)を真っ白で綺麗だと言うようなものだ。


「胡桃、何しにきたの?」

「めっちゃ迷惑そうに言うじゃん、昴夜(こうや)


 雲雀くんの机を叩いたということは少なからず仲が良いのだろうと思っていたら、桜井くんとは名前を呼び合う仲らしい。牧落さんは小動物のように小さくなったまま器用に桜井くんを振り向いた。


「だって、絶対一番だと思ってたのに、三番だよ、三番。しかも一番も二番も五組にいるって噂だったから、来るじゃん」

「侑生と胡桃ってどっちが成績いいんだろって思ってたけど、侑生なんだな」

「あ、もしかして二番は侑生? もー、なんで侑生にまで負けるかなあ」


 牧落さんは机にしがみつくように手を載せたまま、今度は雲雀くんをじっと見つめた。普通の男子ならそれだけでコロッと好きになってしまいそうだったけれど、雲雀くんは「……どうも」と短い返事をしただけだった。


「ね、成績見せて」

「捨てた」


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