ぼくらは群青を探している
 嘘じゃん。ご丁寧にクリアファイルに挟んでカバンに入れてたじゃん! と思ったけれど、嘘を吐くなりの理由があるのだろう。桜井くんもだんまりだった。牧落さんは「ちぇっ。英語、九十二点なのに六番だったから、どんくらい取ればいいのか見たかったのに」とぼやいた。


「ていうか今年の普通科、おかしくない? 侑生、なんで特別科入らなかったの?」

「俺が普通科だからだよなー」

「本当にな、お前のせいだな」

「冗談で言ったのに!」

「あー、仕方ないよね、昴夜、昔っから全然勉強できないんだもん。ね、三国さんは? なんで普通科なの?」


 入試だって一番なんだから特別科でも余裕だったでしょ? そう言いながら、牧落さんの大きな目が探るように私をじっと見つめた。お陰で少しだじろぐ。


「……なんでって言われても」

「三国は普通だから、普通科なんだよ」


 桜井くんがそのセリフを繰り返せば「なにそれ、じゃあたしは普通より頭が悪いってこと?」と牧落さんは頬を膨らませる。そんな仕草すら可愛らしいリスのようで、なんだか顔が可愛い子って何をしても可愛いんだななんて思ってしまった。


「つか胡桃こそ灰桜高校(はいこう)なんて来なくてよかったじゃん、なんで?」

「仕方ないじゃん、お父さんが灰桜高校(はいこう)の進学実績に貢献しろって言うんだもん」

「あー、なるほどね。大変だな」

「お兄ちゃんが貢献したからいーじゃんって思ってるんだけどね。ま、校則緩いからそれはいーんだけど」


 牧落さんは、私と雲雀くんの机の間で(かが)みこみ、膝に両肘をつく。おばあちゃんは私に灰桜高校の制服が似合うなんて言ったけれど、本当に似合うのは、そして着こなしているのは、牧落さんのような子を言うのだろう。


「でも、そっかー。三国さんかあ。ていうか、三国さん、最近昴夜と侑生と仲良いって噂聞いたんだけど本当?」


 なんだか、今日はその噂を耳に入れられることが多い日だ。……ということは、もしかしたらゴールデンウィークのあの日をきっかけに噂は一層の信憑性(しんぴょうせい)をもって広まったのかもしれない……? いや、でも蛍さんは以前から知っていたし、陽菜が知っているのは同じクラスである以上何の不思議もないし、牧落さんは桜井くん達と仲が良いみたいだし、考え過ぎだろう。


「うん、仲良し仲良し。一緒にチャリ乗る仲」

「微妙過ぎて分かんないんだけど、それ」

「だって侑生がニケツすんだぜ」

「あー、そういえば侑生、頭悪い子嫌いなんだっけ? じゃ、三国さんは好みなんだ」


 ごふっ、と陽菜が飲んでいたオレンジジュースに咳き込んだ。私もほんの少し気まずかったし、何より雲雀くんがその鋭い目で牧落さんを(にら)んだのを見てしまった。


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