ぼくらは群青を探している
***

「みーくにっ」


 飛び跳ねるような声のかけ方は荒神くんだ。振り向くと荒神くんは「やほー」と八重歯を見せながら笑い、隣に並んだ。


「帰り? 電車?」

「ううん、バス。荒神くんは?」

「俺もー。昴夜と侑生は? 一緒じゃねーの?」


 荒神くんがそう言いながら辺りを見回すと、額の前に水平に掲げられた手のせいでまるで冒険でもしているみたいだ。


「あの二人とは逆方向だよ」

「あー、まあそうか。そーだ三国、連絡先教えて。やっとケータイ手に入れたから」


 じゃーん、と荒神くんは効果音付きで携帯電話を取り出した。黄緑色の、女子が持っていてもおかしくなさそうなデザインのものだった。

 それにしても、出会いがしらに連絡先を聞くあたり、荒神くんはブレない。


「……いいけど」

「けど?」

「……いやいいんだけど、なんでかなって思って」

「いーじゃん、友達じゃん」


 その定義を考えてしまいそうになったけれど、まあ、ゴールデンウィークに一緒に遊んだからいいか……と考えるのをやめた。電話番号を告げると、荒神くんは「昴夜が羨ましがりそう」と目を細めながら頷いた。


「つか気になってたんだけど、三国、ゴールデンウィークなんともなかった?」


 なんのことやらと首を傾げると「ほら、昴夜のせいで海で転んだじゃん?」とますますよく分からない指摘をされた。


「……風邪は引かなかったけど」

「あー、うーん、そうじゃなくて。体なんともなかったのかなってか、それだと風邪と同じか……」


 荒神くんは指でオレンジ色のメッシュをくるくると(から)めた。体調というよりもう少し広い意味を含意(がんい)するような言い方と、一方ではっきりと口にすることは避けたそうなその態度に加えて、荒神くんが中学二年生の同級生だと考えれば、その言いたいことに思い至る。


「体はなんともないよ。別に、心臓とか悪いわけじゃないし」

「あ、そう?」


 正解だったらしく、荒神くんの声のトーンは明るくなった。同時に、その声の変わり方で当初の声が少し(かた)かったことに気が付く。


「そっか、そんならよかった。いや、あの時はうっかりしてたんだけどさ、極寒の海に飛び込んだらマズイんじゃないかと思って」

「全然。むしろ頭が冴えそう」

「うん?」

「ごめんなんでもない」


 ついポロッと口にしてしまって慌てて首を振った。桜井くんと雲雀くんと仲良くしているせいで荒神くんの前でも油断してしまった。


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