ぼくらは群青を探している
「……聞いていいことか分かんないんだけど、聞いていい?」

「体のこと?」


 文脈と一拍置かれた呼吸とを(あわ)せて考えれば、さすがに何を聞こうとしているのかは分かる。荒神くんは視線を彷徨(さまよ)わせるから、図星とか面食らうとかはこういう表情をいうのだろう。


「……昴夜と侑生は知ってんの?」

「知らないんじゃないかな。荒神くんとか東中の人が話してたら知ってるかも」

「あー、そういうこと……。知らないんじゃね? ほら、俺はこんなんだから覚えてるけど、普通そんなん覚えてないし。学校で倒れたことがあるとかなら別の話だけどさ」


 確かに、中学の最初に担任の先生からちょっと口にされたことなんて、みんな覚えてなんかいないだろう。それこそ陽菜みたいにずっと仲がいい子を除けば、私の名前を聞いても連想しないほうが自然だ。そんなことよりも、荒神くんが「俺はこんなんだから」と自分で自分のことを女子情報屋みたいに話していることはなんだか可笑(おか)しかった。


「だろうね」

「てか、最初に話したときもそれ思ったんだよね。アイツらと一緒にいると心臓に悪くない?」

「あ、それはそうかも」

「だろ?」私が笑ってしまったからか、荒神くんも少し頬を緩めて「アイツらと一緒にいるとすぐドンパチ喧嘩始まるから。いつ巻き込まれるかヒヤヒヤ」

「この間とか、まさしくね」

「そそ。だから……なんか発作とかあるんだったらマズイんじゃないかなって。なんか条件あんの?」

「条件……」


 そんな考え方はしたことがなかったので、少し考え込んでしまった。


「特にないかな。いつもといえばいつもだし」

「いつも?」

「うん。そもそも私には全然、自覚症状ってヤツがないんだけどね」


 荒神くんは少しわざとらしいくらいに首を捻った。意味が分からん、一体どういう意味なんだ、首の角度からはそう聞こえてきそうだった。


「……つかもう聞いていい? なんの病気なの?」


 三国さんは病気なので、みなさん気を遣ってあげてくださいね――そう話した中学一年生のときの担任の先生を思い出す。転校生でもなんでもないのに、わざわざそんなことを口にするなんて、先生のほうがよっぽどおかしいじゃないか――その感想は、今でもあまり変わっていない。


「さあ。私にも分かんない――」


 その、時だった。私と荒神くんが並んで歩いてる横に、黒いスモークガラスのワゴン車が停まった。

 私は何の気なしに車を見ていたのだけれど、荒神くんは「……マズくね?」と小さく呟いた。


「え、なに?」


 一体何事――なんて尋ねる間もなく、大きな扉がスライドして男が二人降りてきた。

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