ぼくらは群青を探している
「いや、いやいやいや、待て待て待て、三国待て」


 それは、私一人連れて行けば大丈夫だし荒神くんは使い走りどころか何もする必要はないですという気遣いのつもりだったのだけれど「んじゃまあいいや、面倒くせえし、両方乗りな」……そう上手くは行かなかった。どうやら私の気遣いは功を奏しなかったらしい。


「……ごめん、荒神くん」

「……ごめんとかじゃなくてさあ、本当さあ、三国は本当さあ……!」


 半ば押し込まれるようにして乗せられた車の中は煙草の臭いが充満していて、蛍さんでなくても煙草が嫌いになりそうだった。腕は縛られたけど、小説でよく見るように目隠しはされなかった。桜井くん達を呼び出す予定である以上、場所を隠す理由はないからだろう。

 荒神くんと二人で大人しく後部座席にちょこんと座っていると「三国だった?」と運転席から声をかけられ、私と荒神くんの両脇の人が「おー、三国だって」「写真より可愛い」と返事をした。バックミラー越しに運転席の人と目が合う。


「そーか? そんな変わんくないか」

「写真、なんか目小っちゃくない?」

「つか化粧してないじゃん、桜井と雲雀って本当にこんなんが好きなのかなあ」

「でも桜井と雲雀のお気に入りなのはマジだべ。雲雀のケー番、聞いてんだってさ」

「桜井は?」

「アイツはケータイ持ってないっすよ」


 荒神くんが代わりに答えると、その隣の男の目が一瞬、荒神くんを見た。


「……でもあの二人、いつも一緒につるんでるんで。侑生にかければ昴夜もいます」

「気色悪ィな、ホモかよ」


 暫く走った車が停まったとき、窓越しに見えたのは波止場だった。頭の中で地図を描き、自分の現在位置を確認する。降りるように指示され、荒神くんと揃って古びた倉庫の中に案内される。

 薄暗い倉庫内では、コンクリート独特のキンと冷え切った臭いと、古さゆえの埃っぽさが鼻をつく。中には、おそらくかつての持ち主が置いて行ったのであろう資材が積まれていて、真ん中には遊技場よろしくビリヤードの台とソファがあった。ソファには何人かが座っていて「早かったな」「隣誰だ? 桜井?」「ちげーよ、桜井は金髪だ」なんてボソボソ話しているのが聞こえてくる。

 その中で、ゆらりとひとつの影が立ち上がる。私達の両脇の人が「新庄(しんじょう)さん、お疲れ様です」「連れてきました」と挨拶をするので名前が分かった。ついでに荒神くんが「うぎゃ」と小さく呻く。荒神くんはよく呻く。


「新庄って、新庄篤史(あつし)かな」

「有名人?」

「昴夜と侑生が西の死二神なら新庄は北の悪鬼(あっき)(ディープ・)(スカーレット)に入ってて、昴夜と侑生がマジで可愛く見えるくらいにはヤバイヤツ、だから同級生も敬語遣うし」

「おいうるせーよ」


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