ぼくらは群青を探している
 私達を拉致(らち)した二人組に怒られ、荒神くんと揃って首を竦めてしまった。そんな私達の前に、ゆっくりと、その新庄()が立ちはだかる。

 桜井くんと雲雀くんの怖さはすっかり減退してしまっていたので、荒神くんの説明を聞いてもピンとは来なかった。ただ、ゆらりなんて擬態語の似合いそうな長身と酷薄(こくはく)そうな笑み、そして頬にある大きな傷跡は、どことなく不気味だった。


「……これが、三国英凜ちゃん?」


 その不気味さに合わせたように、その声はゆったりと、のんびりとしていた。

 それはさておき、本当に右を向いても左を向いてもフルネームを知られていそうな認知度の高さに、状況も忘れて首を捻ってしまった。本当に、いつの間にか棚から牡丹餅有名人だ。いや、別に全く嬉しくなんかないのだけれど。


「と……、こっちは?」

「荒神です。三国が一人だと体弱くて死ぬつーんで連れてきました」


 そう言ったつもりはなかったのだけれど、この人達にとって、体が弱いのか、だから一人だと死ぬのかは大した問題ではないのだろう。二人組の片方がそれを訂正することはなく、新庄も「ああ、なんか桜井とかとたまに一緒にいるやつね」と頷いただけだった。

 そして次の瞬間、なぜか私と荒神くんの両脇の片方――つまり仲間を蹴っ飛ばした。

 鈍い音と呻き声とが混ざった。突然の仲間割れに、私と(多分荒神くんも)石像のように硬直した。一体何が起こったのか分からなかった。一体、いまの遣り取りの中で、何がこの新庄の気に(さわ)ったのか、さっぱり分からなかった。

 だからこそ、その理不尽な暴力に冷や汗が止まらなくなった。


「あのさあ、俺、言ったよね」倒れた仲間の前に新庄は屈みこみ「荒神と二人でいるとこ狙えって。それなんでだったっけ?」

「……三国を、連れて行ったと、桜井達に伝えないといけないから……」

「そうだよねえ」


 倒れたほうが答えられなかったので、もう片方が代わりに答えた。


「じゃあ、なんで荒神を連れてきちゃったのかな」

「……三国が、一人だと死ぬっていうから……」

「それ、関係あるかなあ?」

「で、でも、三国になんかあったら、桜井も雲雀も絶対深緋には入らないだろうって」


 ……つまりこの新庄は深緋のメンバーということか。話が読めた。ゴールデンウィークは黒鴉、今日は深緋……桜井くんの言葉を借りればラブコールの一環としての拉致、だ。


「まあ、それはそうだろうねえ。じゃ、どうすんの。どうやって桜井達呼ぶの」

「三国が……、雲雀のケー番知ってるって……」

「ほーん?」


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