ぼくらは群青を探している
「一緒にいてくれて、話が早いなあ。いや、あのねえ、北海岸の漁場に並んでる倉庫、分かる? あの三番の倉庫に三国英凜ちゃんと一緒にいるんだけど」


 荒神くんがいないことにされた。でも、大事なのは私がここにいるという情報だけなので仕方がない。


「《……来いってか?》」

「そういうこと。北の悪鬼と西の死二神が組むのも、悪くない話だろ?」


 電話の向こうで少し沈黙が落ちた。桜井くんの声も聞こえなくなったので、桜井くんも状況は理解したらしい。


「分かったら、今すぐ。よろしく」


 新庄は律儀に携帯電話を返してくれた。こんなもの、預かっておくに越したことはないはずだけれど「こう見えてもフェミニストだからねえ」と半ば押し付けるように返された。どうやら本当に、私のことはなめくさっているらしい。実際、携帯電話にはめぼしい連絡先もないし、警察になんて連絡できないから、その認識で正しいといえば正しいけれど。

 正しいけれど。そっと携帯電話を握りしめ、注意深くポケットの中にしまいこむ。ドクンと焦りで心臓の鼓動が大きくなった。

 新庄は私と荒神くんに「んじゃ、まあ、座っとこうか。お前らに手だしたら桜井と雲雀が深緋に入んないかもしれねーからさあー」とソファへと促す。おそるおそる、荒神くんと顔を見合わせていると「ほらあ、こっち来いよ」と追撃され、脇に控えている一人にも奥へ行くよう小突かれた。荒神くんが「痛い痛い。てかこれほどいて?」と少しふざけ気味に言うけど無視された。

 奥のソファに座っているのは、新庄を合わせて四人。ソファの真ん前にあるサイドテーブルには灰皿が置かれていて、待ちくたびれたかのように吸殻がいっぱいになって、いまにも(あふ)れそうだった。その割に三人が煙草を吸おうとする気配はなく「三国英凜って結局あの二人のなんなん」「知らん、一緒にいるの見るってばっかり」「どっちのなに?」と噂話のような話し声が聞こえてくる。

 カチリと小さな音がした。ゴクリと緊張で再び喉が鳴る。ソファに座る四人をじっと観察しながら荒神くんの隣に隠れるように立ち位置を変えると、新庄が煙草に火をつけながらこちらを見て「三国ちゃんって、なんで桜井らとつるんでんの?」と暇潰しのような雑談を投げてきた。


「……ただ、同じクラスなので」

「へーえ。怖くなかった? だって死二神だよ?」

「……それは、別に。それよりも、あなたが――新庄篤史さんが、私と荒神くんを誘拐してまで桜井くんと雲雀くんを仲間に引き入れたい理由が、分かりません」


 今度は、声が震えた。格好悪かったけれど、こんな目に遭ったことがない私の、それが精一杯だった。


「真面目っ子ちゃんには分からないって。あの二人、中学の頃からとにかく負けなしだったからね」


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