ぼくらは群青を探している
 じっと辺りを観察する。ここにいるのは、私達を除けば六人。


「……そんな二人だから、わざわざ新庄さんも含めて六人も用意して、待ち伏せてるんですか?」

「そう。まー、六人いても、三国ちゃんとかがいると手出せないんだろうけどねえ。知ってる? 雲雀が妹のこと溺愛してる話」


 新庄の、感情の起伏の薄そうな顔の中で、頬骨が少し上がる。細い目は一層細くなった。


「むかーしむかしの話だけどねえ、まあだから、あの妹、何歳だったんだろ? とりあえず誘拐するのは簡単だったんだよねえ。妹連れて行っただけで、もーあの雲雀が思うがまま。やっぱりああいうのがあると、味を占めちゃうものだよねえ、人間って」


 ただ会話が続けばいいと思っていただけだったところに飛び込んできた情報に戦慄(せんりつ)した。同時に、拳を握らずにはいられない。


「……昴夜に聞いたことあるけど、あれやったのお前か」

「ああ。お陰でこのとおり」顔の傷をなぞりながら「桜井にはばっちりやられたんだよねえ」


 胸糞悪いというのは、こういう感情を言うのだろう。桜井くんが話していたことの──いわば事件の犯人が、こんなところにいた。桜井くんによればそのせいで雲雀くんは虫の息になるまで殴られ続けていた……。


「……喫煙者で外道なんて、最低ですね」


 悪鬼と呼ばれる新庄に対してあまりに()()けな物言いだったせいか荒神くんに少し小突(こづ)かれたけど「なに、蛍永人の受け売り?」と新庄はさして気にしなかった。


「……新庄さんは、(ディープ・)(スカーレット)の一員なんですよね? ここも──北海岸の漁場の三番目の倉庫って言ってましたけど、ここは(ディープ・)(スカーレット)が使ってる倉庫なんですか?」

「いや、ここは普段は使ってないらしいねえ。俺は(ディープ・)(スカーレット)に入ったばっかりでねえ、せっかくだから手土産のひとつでもと思って、それが桜井と雲雀ってわけ」

「そんなにあっさり、二人が(ディープ・)(スカーレット)に入るんでしょうか」

「そのための三国ちゃんでしょ?」

「確かに、私と荒神くんがいれば、桜井くんと雲雀くんなら(ディープ・)(スカーレット)に入るという条件を黙って呑んでくれると思います。私と荒神くんを人質にして、桜井くんと雲雀くんに(ディープ・)(スカーレット)に入るよう脅迫するわけですから」

「うん。もし俺が外道ならね、桜井と雲雀は……なんだろう、外道の反対って内道なのかな? 脅しがきくっていうのは、やっぱりいい人だよねえ」


 ……本当に、反吐(へど)が出るほどの外道だった。

 そっと視線を向ける場所を変える。私達を誘拐した二人のうち、新庄に殴られた一人も含めて、扉の前に立っていた。

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