ぼくらは群青を探している
 倉庫の内側に立っているということは、見張りではない。それなのに座らずに立たされているということは、きっとあの二人は、このソファに座る人達よりも格下なのだろう。


「……私達には何もしないんですよね? こうやって、私のことは縛りもしないわけですし。私達に手を出すと桜井くん達が(ディープ・)(スカーレット)に入ってくれなくなるかもしれませんもんね」

「うん、しないよ」

「……私は、この後どうなるんですか?」


 少し声が震えた。それは緊張もあったけれど、危害を加えられるかもしれないという、ほんの少しの可能性がほんの少し、脳裏に過ったからだ。


「あー、あんま考えてなかったなあ。桜井と雲雀が深緋に入ればまあ用済みなんだけど」

「……手土産が必要ってことは、新庄さんも(ディープ・)(スカーレット)ではまだ下っ端なんですか?」

「おい三国」

「大丈夫だよ、荒神くん。俺はそんなに気は短くないよ」


 更に私を注意する荒神くんに、新庄は喉を鳴らして笑った。


「そお、下っ端。それがどうかした?」

「……この場にいる他の五人は新庄さんに敬語を遣っているということは新庄さんのほうが格上、それなのに三人は新庄さんと同じソファに座ってるので同格とも思える、ただ倉庫の入口の二人はソファから離れて立ってるのでいかにも格下っぽい、そう思うと(ディープ・)(スカーレット)内での上下関係が読めないなと……」


 少し喋り過ぎた気がして口を閉じた。新庄が少し黙って──ゆらりと立ち上がる。荒神くんの背後にサッと隠れると、荒神くんは「三国! 散々喋って俺の後ろに隠れんのやめて!?」と緊張感のない小声と共に半分だけ私を振り向く。

 その荒神くんの背中からじっと新庄を見つめる。ドッドッドッと心臓は早鐘を打ち始めていた。

 新庄は私を見下ろし、口角を吊り上げ、どこか下品な笑い方をした。ぬっと伸びてきた手のせいで、荒神くんが一歩下がる。私もあわせて一歩下がった。


「……荒神、退きな」

「ほらあ、フェミニスト仲間じゃん。女の子を守るのが男の義務じゃん?」

「退けって言ってんだよ」

「荒神くん!」


 バンッと大きな音と共に荒神くんの頬が体ごと弾き飛ばされた。私が悲鳴を上げるのと、新庄が私の胸座(むなぐら)を掴んだのがほとんど同時だった。

 体が持ち上がり、奇妙な浮遊感に襲われる。副流煙による息苦しさと胸座を掴まれたことによる苦しさとで顔を(ゆが)めていると、不意にスカートの、中をまさぐられて、まるで虫が()うような悪寒が背筋に走った。


「っ──」

「古典的なセコイ真似しちゃあだめだよ、三国ちゃん」


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