ぼくらは群青を探している
 スカートの内側から、弾くようにスカートのポケットを叩かれた。その手は無駄に、そして執拗(しつよう)(ふと)(もも)を外側から内側へと()でる。人の体温が、こんなにも気持ちが悪いことなんてなかった。


「三国!」


 荒神くんの声と、もう一度鈍い音が聞こえた。視界の外で「なに? なにやってんの?」「いいじゃん、ほっとこうぜ」「てか荒神って……あれだろ? もうちょい縛ったほうがいんじゃないの」と他の三人が話す声が聞こえる。


「三国ちゃん、手出されないと思って、油断してない?」


 太腿から手が離れたかと思うと、その不快感は、体がコンクリートの上に叩きつけられた痛みに断たれた。新庄が私の上で馬乗りになる。背中からはビリビリとした痛みとコンクリートの冷感が、お腹からはズッシリとした重みと新庄の体温が、体に注ぎ込まれるようだった。その不気味さに、悪寒を感じる余裕すらなく体が凍り付いた。

 その手は、今度こそスカートのポケットに突っ込まれる。新庄は、開きっぱなしの携帯電話を、見せつけるように私の頭上で振った。


「だーれに電話してたのかな? 雲雀くん?」


 新庄は携帯電話を見ながら「でも雲雀なら登録してんだもんな。電話だってさっきかけたし。なんだこれ」と呟く。その携帯電話番号を見ていない以上、私にだって誰に電話をかけていたのか確信を持てない。

 ドクリドクリと心臓が鳴っていた。早く、見せて。せめて、早く見せて。手探りの発信にミスがなかったと安心させて。

 新庄がゆっくりと、私に画面を突き付ける。


「ねーえ、これ誰?」


 「通話中」が表示された画面を凝視する。頭の中にある写真とそれを比較した。

 十一桁の数字は間違いなく一致していた。通話時間は

 7分17秒、18秒、19秒……

 と(きざ)まれていく。

 それが、ブツリと切られた。通話時間は7分21秒。

 頭の中で、荒神くんの連絡先を登録したときの携帯電話画面の記憶を引っ張り出す。あのときに画面の右上にあった数字は16:32だった。次に、新庄が私に携帯電話を突き出したときの画面の記憶を引っ張り出す。あのときに画面の右上にあった数字は16:55。つまりこの二つの行動の差は二十三分。

 荒神くんの連絡先を聞いてから私と荒神くんが車に乗せられるまでの時間、倉庫に着いてから雲雀くんに電話をかけさせられるまでの時間を概算して、その二十三分から無駄な時間を引く。ついでに頭の中の地図で現在位置と灰桜高校の位置との距離を概算する。おそらく新庄が口にした「三キロ北」は適当ではなく、新庄自身が認識している概算の距離。

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