ぼくらは群青を探している
「……お前、裏門にいたんじゃねーの」

「裏門?」

「……裏門で騒ぎがあったって話してる連中がいた。お前じゃねーの」

「……待ち合わせしてたの、グラウンド側だよな?」

「バカ、校舎の前が正門に決まってんだろ」


 二人の話には決着がつき、金髪は椅子の上で胡坐(あぐら)をかきながら「なんだよー、待ち合わせ場所じゃないって分かってたら相手にしなかったよ。お前が来ると思ったから場所取りしてたのにさ」と、少し冗談めかしたような口調で言った。

 そんな二人の会話を盗み聞きしているうちに、五組の座席は着々と埋まりつつあった。でも私の席は端と決まっているので(多分壇上にあがるときに列を抜けやすいからだと思う)、他のみんなと違って選べるわけではなく、急いで着席する必要はない。

 それになにより、私の席は、あの金髪の隣だし。なんならあの銀髪がいま座ってる席だし。

 最悪だった。到着した順に自由着席の入学式で、なぜよりによって金髪の男子の隣に座り、しかも座るためには銀髪の男子を押しのけなければならないのか。急いで着席する必要はないどころか最大限遅れて着席したい気持ちでいっぱいになった。とんだ苦行と試練だ。今すぐ回れ右してこの場から逃げ出してしまいたい。

 が、ただの入学式ならそれで済むのに、代表挨拶なんて華々しいふりをした苦々しい役割のせいでそうもいかない。

 意を決して、ゆっくりと金髪と銀髪に近づいた。


「……あのう」


 今生(こんじょう)の勇気を振り絞ったと思う。セットになってぎゃあぎゃあ喋っている金髪と銀髪に、横から口を挟んだのだ。後にも先にも、こんなにも勇気を振り絞ったことはなかったと、その時には思った。後から、そんなのへでもないほどの恐ろしいイベントにことあるごとに巻き込まれていくことになるなんて知らなかったから。

 金髪も銀髪も、揃って振り向いた。第一印象のとおり、銀髪のほうはまるで狼みたいに鋭い目つきと高い鼻だったし、金髪のほうは女子顔負けのぱっちりした目と通った鼻筋で、どことなく子供っぽいのにどことなく精悍(せいかん)な顔つきをしていた。

 二人とも、有象無象(うぞうむぞう)の他の男子とは違って、きれいな顔立ちだった。しかも、思春期の悩みってそれ都市伝説でしょとでも聞こえてきそうなほど、白くてつるつるの綺麗な肌。色素の薄い髪色も、そんな綺麗な顔と肌なら許せてしまう気がした。

 なんてことを冷静に考えていたのは、ただの現実逃避だ。内心はこの不良二人組に「俺らが喋ってんのに口挟んでんじゃねえよ!」と怒鳴られでもするのではないかと、よくて殴られて終わりなのではないかと、そんな妄想でいっぱいだった。首から背中までびっしゃりと冷や汗で濡れていた。新品の制服は早速クリーニングに出す必要があるかもしれない。

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