ぼくらは群青を探している
 その視線の間に、桜井くんが割り込む。ゴールデンウィークの海と同じで、まるで私を庇うように、私と蛍さんの視線が交錯(こうさく)するのを邪魔する。


「……そこは、もう、俺達が約束した通りなんで。三国は関係ないってことにしてもらえないですか」


 あれ、敬語? 状況にそぐわない疑問かもしれないけれど、その疑問は桜井くんと蛍さんの関係の変化を推測させるのに充分だった。


「……まあ、今回に限ってはそうだな」


 桜井くんは、その返事に頭を下げた。

 そのまま私に向き直り「大丈夫? 立てる?」と腕を引っ張ってくれた。立とうとして立てなかったわけではなかったのだけれど、そうされて初めて、自分が腰を抜かしていたことに気が付いた。


「……立てない」

「……おんぶでいい?」

「え、いや、いいよ。いやイヤとかじゃなくて、その、ほら重たいし」

「あー、てか立てないならおんぶむりかな。抱っこか」

「えっ」


 桜井くんに体を持ち上げられ、慌ててしがみついた。ジャンプしているときとは違う浮遊感に襲われる。大体、自分とそう変わらない体格(だと思う)の桜井くんに抱えあげられるなんて思ってもみなかったせいで、その意味での驚きもあった。

 桜井くんの右腕は膝下にあった。もう少し先に、新庄が触れた場所がある。ぎゅ、と無意識に、桜井くんの肩に乗せた腕に力が籠ってしまうのを感じた。


「さーて、ラブコメは後にしてもらおうか」


 倉庫内を見て回っていた蛍さんが倉庫の出口を指さす。


「こんなところに入ってて、誰かに見つかると面倒くさい。いったん外に出る。話はその後だ」


 視線を動かし、携帯電話が転がっているのを見つける。拾わなきゃ、と考えていると、まるでテレパシーでも伝わったように、雲雀くんがそれを拾い上げてくれた。雲雀くんのいつもの不愛想な顔と目が合う。


「……三国のだろ?」

「……うん。ありがと」


 私が桜井くんにしがみついているせいか、雲雀くんはそのまま携帯電話を預かってくれた。隣では荒神くんが「あーもう、マジ痛い」と手首を擦っていた。

 桜井くんにしがみついたまま外に出ると、ずっと倉庫の入口に立っていた長身の人が「ああ、結局なんもなしで?」「逃げたっぽいな」と蛍さんと話す。その視線が私に向いた。

 ゴールデンウィークに蛍さんと一緒にやって来た人とシルエットが完全に一致するから「能勢(のせ)芳喜(よしき)」さんだろう。ほんの少し垂れ気味の優しそうな瞳とほんのりと口角の上がった薄い唇と、口元の黒子(ほくろ)が印象的だった。同時に、桜井くんが「イケメンで背が高くて色気がある」と言っていたことも思い出したし、納得もした。今後「色気のある人」と言われて真っ先に浮かぶ人になりそうだ。

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