ぼくらは群青を探している
 ほっ──と胸に安堵が広がる。私が誘拐されたことが発端とはいえ、私が蛍さんに電話をしたせいで群青に入ったわけではなかった。


「コイツらが群青に入るにあたって提示した条件は、三国、今回の件について俺が──群青が、お前を助けることだ。いいか、今回の件について、だ」


 蛍さんは注意深く、対象を限定した。


「俺は、群青のメンバーの女が誘拐されただのなんだの言われれば、そんなクソみたいな外道は潰してやる。ただ、メンバーのダチだのお気に入りだの、そんなものにまで手を広げるほど暇じゃない」

「……私を助けるのは今回限りってことですね」

「ああ。もちろん、桜井と雲雀はこれからもお前を助けてくれるんだろうけど」


 当然だとでもいうように、桜井くんがうんうんと頷いた。雲雀くんは動かないけれど、それこそが肯定だろう。


「それで手に負えなくなったのが、今回だ。お前が同じように拉致だの誘拐だのされる可能性はいくらでもある」


 桜井くんと雲雀くんと一緒にいる限り、ということだろう。推測ではあるけれも、二人が群青に入ったことで一層二人の周りは危険に晒される気がした。


「分かったら、今ここで、コイツらとは縁切りな」


 蛍さんは、そうして執拗(しつよう)に私と桜井くん達を切り離そうとする。

 桜井くん達は何も言わなかった。蛍さんの言葉が正しいからだ。

 でも、本当に、もう遅いのだ。スカートの上で手を握りしめた。


「……イヤです」

「……だろうな」

「えっ」


 きっと怒られると思っていたので面食らった。それどころかあまりにも簡単に引き下がられて、これからしようとしていた理由付けが頭から飛んだ。


「だろうなって……」

「誘拐されて、ろくに話したこともねー俺に電話かけてくる女がまともなわけねーからな。どうせゴネるとは思ってた」


 蛍さんは舌打ちした。そのセリフからすれば、分かりきっていたこととはいえいざ耳にすると苛立たずにはいられない、きっとそんな舌打ちだった。


「が、三国。俺はお前のその度胸を買ってやる」


 ピンクブラウンの髪の隙間から覗く、蛍さんの瞳が細められた。


「誘拐犯は六人、メンツは(ディープ・)(スカーレット)。お前と荒神つー人質がいる中で桜井と雲雀がろくに相手をできるわけがない。その中に、連中と最高に仲が悪い群青のトップを、使えるって理由だけで呼びつけて助かろうとした、その度胸を買ってやる」


 ぶるっと、さっきまでとは別の意味で背筋が震えた。


「さあ、三国、選びな」


 桜井くんも雲雀くんも口を出さないのは、きっとその選択をするしかないと分かっているからだ。


「群青に関するあらゆる決定権限は俺にある。――お前が群青に入るって言うなら、俺は受け入れる」


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