ぼくらは群青を探している
 なぜか桜井くんが横から口を出した。蛍さんは少し目をぱちくりさせていたけれど――ハハッと声を上げて笑った。


「そっか、そうだったか。電話番号って……十一桁だろ? いざってときのために覚えるけど登録はしない、か。三国、やっぱりお前の度胸スゲェな」

「……これでも必死だったんですが」

「安心しろ、褒めてんだよ。で、ついでにそろそろ俺のバイクから降りな」

「あ、すみません――」


 慌てて降りようとすると、まるで子供を抱き上げるようにして正面から抱きしめられた。ほんの僅かな煙草の臭いが鼻孔をくすぐるほどに密着した、それによる緊張か、狼狽(ろうばい)か、恐怖か、どれともつかぬ感情に支配された心臓が再び跳ね上がる。

 一体何をされるのか――(まど)う間もなく、ストンと地面におろされた。

 あ、なんだ、バイクから降ろしてくれただけか。動揺している私を、蛍さんはバイクから見下ろした。


「三国英凜、お前、群青に入るならもうちょっと男に慣れな」


 そんなこと言われたって、急に先輩に抱きしめられて動揺しない子のほうがどうかしてる。つい、口を(とが)らせてそんな文句を言いたくなった。煙草の臭いがするくらい密着して平気な顔をしろなんて、そんな――。

 ……あれ? ふ、と妙な違和感が脳裏を掠める。蛍さんって、煙草嫌いなんじゃないっけ。ああ、でも、臭いがするから吸ってたってことにはならないな。誰かが蛍さんの近くで煙草を吸ってた可能性だって――。

 脳裏に新庄の咥え煙草の姿が(よぎ)った。

 その瞬間、ゾッと背筋が震えた。

 もし、蛍さんが、仕組んだのだとしたら?
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