ぼくらは群青を探している
 てかアンタ誰。そう口にする前に「ほら、早くしないとおやつの時間が終わろう」と急かされた。いまは朝九時半だった。


「いや、あの……」

「今日は自転車で来たからねえ、タクシーで来たらよかったねえ。若いからって歩かせちゃいけんねえ。あら違うね、アンタも自転車かね」


 さすがに、この年で「おいしいお菓子があるよ」と誘拐されそうになっているのだとは思わない。きっとこのばあちゃん、ボケて孫かなんかと俺を勘違いしてんだ。それにしては苗字で呼ばれるのは変だけど。近所の子供とかだったのかな。

 ボケてるなら家まで送ってもいいけど……。そんなことを思っていると「英凜ちゃんがいつも言うのよ、もう自転車に乗るのはやめなさいって」知っている名前が聞こえたので話が変わった。


「……英凜?」

「英凜ちゃんと、仲良くしてくれとるんでしょう、桜井くん」


 ニコニコなんて聞こえてきそうな様子で微笑む顔に、三国の面影は一切なかった。そりゃそうだ、だって相手はしわくちゃのばあちゃんなんだ、どっか似てたとして分かるわけがない。

 ただ、三国がばあちゃんと二人暮らしなんだってことは知っていたから。


「……三国のばあちゃん?」

「あら、わたしゃ名乗っとらんかったかいね」


 しいて一つ、似ている点を挙げるとすれば、頭の良さのわりにボケッとしたその返事だけだった。


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