ぼくらは群青を探している

 自分の上に馬乗りになる、新庄の顔が再生される。


『続きはまた今度ねえ』


 悲鳴を上げようとしても、声帯を失ってしまったかのように、声がでない。叫ぼうとしても叫べない。声が出ないと助けを呼べないのに、大きな声を上げないと、桜井くんが気付いてくれないのに――。



 ……ハッ、と目を開けた。

 視界には見慣れた畳と縁側が広がっている。外は暗く、何時なのか分からなかった。

 手を伸ばして目覚まし時計を掴むと、時刻は九時半……。

 学校に行かなきゃいけなかった気がする。今日は何曜日だっけ。……土曜日だ。……学校は休みだ。

 はあー、と布団の中で溜息が広がる。途端に温かさを感じたので、今日は気温が低いのだと分かった。

 新庄に拉致されたのは、二日前。二日前の夜は、頭の中でずっと新庄の顔とセリフがぐるぐると回っていて寝れなかった。逆に、そのお陰で昨日は寝ることができた。……といっても一時間くらいは寝付けずにいた気がするけれど。

 続きはまた今度……。あんな予告をされなければ、夢にまで見ずに済んだかもしれないのに。わざわざ大掛かりな儀式なんてなくても、言葉だけでも人を呪うなんて簡単なことなんだ。布団の中に(うず)もれたまま、そんなことを考えた。

 それにしても、家の中の音がしない。起きて居間へ行ったけれど、おばあちゃんの気配はなかった。台所、トイレ、仏間と順々に顔を覗かせたけれどいない。勝手口から顔を出すと、自転車がなかったから、買い物にでも行ったのだろう。


「いい加減、自転車乗るのやめなよって言ってるのに……」


 ブツブツと呟きながら寝間着を着替える。朝ごはんを食べようか悩んだけど、そろそろ十時になるのでお昼を待つことにした。

 そのままごろりとこたつで寝転んでいると、ガラガラと玄関の引き戸の音がした。顔を向ければ障子にはおばあちゃんのシルエットが映ったので「おばあちゃん……」とつい呆れ声になる。。


「また自転車で行ったでしょ。危ないからやめてって言ってるのに――」


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