ぼくらは群青を探している
「参観日とか、母さんがモロ外国人だから変だ変だって言われたし。俺もみんなと同じ普通の母親がよかったなって思ったね。別に、普通の母親だったんだけどさ」

「……お母さん、どうしたの」

「事故であっさり死んじゃったよ」

「……ごめん」

「なんで謝んの、別に、死んだのは本当だし」


 振り返ると、桜井くんはソファに横になっていた。


「……髪が明るいの、やだなーって思ってたんだけど、母さんがいなくなったら途端にいいなあって思い始めちゃってさ。俺、もともと髪の色で虐められてたし、なんかもう茶でも金でも同じじゃね? って思ってずっと金。遺影にいつも土下座して母さんに金色見せてる」


 笑っていい場面なのか分からなかったけど笑ってしまった。いい成績を持って帰って喜んで母親に報告する子供みたいだ。


「……お母さんも喜んでるんじゃない」

「んー、でも喧嘩しすぎって怒られそう。遂に群青に入っちゃったし」


 ショートパンツの上で、手を握る。桜井くんは「あ、別に三国のせいじゃないよ、マジで」と明るく笑った。私が二人に責任を感じていると、桜井くんには分かるのだろう。


「侑生も言ってたけど……遅かれ早かれってやつだよな。ゴールデンウィークもそうだったけどさ、俺達、しょっちゅう絡まれるもん。そりゃ三国も拉致されちゃうよな」

「……でも、私が蛍さんに電話したし」

「いやだからさー、それは俺らが蛍さんに頭下げに行った後だって。つか蛍さん、三国のことお気に入りじゃん、普通、誰かの彼女でもないヤツなんて助けてくんないよ」


 それは蛍さんも言っていたことだ。友達だという理由だけで助けていたらきりがないから、そんなことはしないと。

 でも、蛍さんが私をお気に入りだというのには、どこか釈然としないものがあった。ろくに面識もないのにお気に入りにされるような美少女でないのは分かっているし、いかんせん、新庄と蛍さんの関係が怪しすぎる。

 ただ、憶測でそんなことを口にするわけにはいかない。


「それに、俺達、蛍さんのこと結構好きだもん」


 そうやって、桜井くんも蛍さんのことを慕っているし。


「……そう」

「……新庄に拉致されたのは、マジで気にしないでいいよ。アイツはそういうクソ野郎だから」


 いつも明るい声の桜井くんにしては、珍しく吐き捨てるような言い方だった。


「……雲雀くんの妹さんも、新庄に誘拐されたんだっけ」

「……なんで知ってんの?」

「新庄がそう言ってた。妹を誘拐したら雲雀くんを、まあ殴りやすかったみたいなニュアンスのこと」

「……本当にクソ野郎だよな、アイツ」


 桜井くんは起き上がり、ソファの上で膝を立てた。


「……侑生の妹、下校中にさ、侑生が怪我で病院に運ばれたって騙されて連れてかれたんだ。で、侑生のこと呼び出して、四人がかりでリンチ。下手したら死ぬまで殴ってたんじゃね」

「……結局、妹さんはどうなったの。助かったんだよね?」

「うん。でもそのせいで侑生は大怪我だし……色々あったんだよな」


 桜井くんは詳細を(にご)した。まあ、言葉のとおり色々あったのだろう。


「……桜井くんと雲雀くんって、なんで新庄と仲悪いの?」

「んー、なんでか忘れたけど、多分、最初は侑生が新庄にいじめられてたんだよね。小学校の頃」

「……あの雲雀くんが?」


 仲が悪いでも喧嘩をするでもなく、虐められていた? 喧嘩は双方向だけれど、虐めは一方通行だ、雲雀くんの見た目からは想像がつかなかった。


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