白雪姫は寵愛されている
「ちょっと待て」
難波先輩が仁くんを止めてくれた。
「…なんだ」
不機嫌そうに声を出す仁くん。
「千雪ちゃん、泳げないんだとよ」
「…本当か?」
ジッと難波先輩を見た後で私に視線を移した。
私は静かに頷く。
「なら俺が教え…」
「感覚主義者が何言ってんだ。お前は全部効果音でしか教えられないタイプだろ」
効果音でしか教えられない…感覚主義…。
もくもくと出て来る妄想。
仁くんが…、
”これは…バッてやって、シュッと構えて行く”
「ふ、ふふ…」
思わず漏れてしまった笑い声。
い、いけない…勝手に想像して笑うなんて…ふ、ふふ。駄目です。失礼です、よ…ふふっ。
プルプル震える身体は仁くんを不安にさせたみたいだった。
「大丈夫だ、千雪。それなら一緒に別の事を、」
「そ…そんな悪いです。折角なので、楽しんできてください」
何か言いたげな仁くんが私の方を向く。
…また笑いそうです。
気を引き締めないと。
すると、
「いいから、お前は遊んで来いよ」
難波先輩が言った。
……お前?どうして、仁くんにだけ言うのでしょう…?
「…千雪を一人にするのか?」
「それじゃ、千雪ちゃんが可哀そうだろ」
「あ、あの…私は大丈夫ですから…」