白雪姫は寵愛されている
海の中
「……総長と対立出来ねーからな」
…なんの事だろう?
何かを呟いて、先輩が離れた。
本当に1分ぐらいだったと思う。
目が合い笑ってくれた。
「よし、戻るか」
先に立ち上がった先輩が私に手を差し出す。
戸惑いながらもその手を取る。
良かった。いつもの優しい難波先輩に戻ってる。さっきは少しだけ怖かったから…。
「千雪!」
仁くんが走って来る。
「仁くん?」
どうしたんだろう。慌てて…。
私の顔を見て、眉間にシワが寄った。
「…花?」
視線の先には貰ったハイビスカス。
「あ、これですか?難波先輩に頂いたんです」
「…慶が?」
「なんだよ。俺がやっちゃまずいのか?」
「……珍しいな」
「そーかぁー?」
先輩は欠伸した。
珍しい?…あっ、そうですよね。ハイビスカスなんて私も初めて本物を見ましたから。驚きますよね。
「……俺ねみーから、あと任せるわ」
「ひゃあ!?」
背中を押され、仁くんの胸に飛び込んだ。
「おま…」
「んじゃ」
そう言って難波先輩は、パラソルの方に戻っていった。
「…千雪」
名前を呼ばれて上を向く。
瞳の中に私の姿が映ってる。
でも直ぐに私から顔を背けてしまう。
や…っぱり。
「私には…似合いませんね」
そうじゃないと、さっき言われたはず。お世辞だと思っていたし分かっていたはず…。
でも、どうしてかな?
仁くん相手だと、可愛くいたいと思うのは…。
「み、ずぎも。お花も私には…」
「千雪、」
仁くんの手が私の耳に触れた。
滑るように頬も触れる。
体がビクッと反応する。
「すごく似合ってる」
そう言って笑った。