白雪姫は寵愛されている
一章
朱雀
汗が頬を伝い、落ちた。
季節は夏から秋に向かう最中。まだ都心は暑いけど、汗が出るほどは暑くない。それでも次から次へと汗が止まらない。
目が隠れるほどに長い前髪と、腰まである黒い髪。清楚系とは程遠い、陰気なキャラクター。通称、陰キャ。
きっと校内ヒエラルキーの底辺だろう私は────…、目立つことはせず、物静かで休み時間には一人で本を読み、お昼休みは一人でご飯…な生活を送る人間である。
誰にも相手にされず、関わらず、お陰様で友達は0人。先生にさえ、いい顔される事はない。
一人だけ真面目に制服を着て、一度も染めた事無い髪。
……でも、それでいいんです。
誰にも関わらないと…高校生活だけは3年間暮らすって決めていたから。─────だから、これは勘違いなのです。
近道をしようと思ったのは早く図書館に向かいたかったから。校舎を出て、体育館裏を通り、真っ直ぐ向かえばその先には図書館。大きく回って行くよりも断然そっちが早かった。
私が見つけた、秘密のルート…のはずだった。
「─────おい」
「は、い………え?」
体育館裏、滅多に人が通らない事を知っていた。
このルートなら誰にも見つからないと思ってた。
それなのに引き留められた。
体育館裏で、待っていた。
赤髪の……先輩が。
気のせいだと、頭を下げて横切る予定だった。…だけど「聞きたいことがある」と言われ。怖くて逃げようと思い、走り出そうとして腕を引かれてしまった。
抱えていたスクールバッグに力が入る。
怖くて俯こうとするたびに『見ろ』とオーラが私を包み、半べそで先輩を見ていた。
長い前髪のお陰で、なんとか見ることが出来ている状態。もし、この前髪がなかったら…多分もう立っていられないかもしれない。
「…白藤 千雪かって聞いてんだろ」
それは正しく私の名前──────、だけど。
「ひ…ひ、人違いです…」