白雪姫は寵愛されている
沈黙の車内。
何を話して良いか、分からなかった。
……むずむずします。
鼓動が早くなるのは、気まずさからかもしれない。面白い事も話せない、話す内容も思いつかない。
そんな私といても、楽しくないと思うのに。
どうして”傍にいてほしい”なんて言うんだろう?
駅に着くと、先輩はまたシートベルトを外してくれた。
よ、ようやく…気まずさから解放されます…!
喜びと安堵。そしてふと思い出す。
…そういえば、難波先輩が「また明日」って。
あれってどういう意味なんだろう?
言われたその時はなにも反応しなかった。だけど後々考えてみたらどうしてなのか気になる。
────きっと流れで言っただけですね。深い意味は無いとだろうし…気にしないようにします。
「あの…ありがとうございました。それでは、」
ドアを開けようと手を掛けた時、後ろから重みを感じた。もたれ掛かるように先輩の頭が私の背中に乗っていた。
………っ?
「────明日も迎えに行く」
耳元で囁く声。
怖くない。
低い声、さっきまでと変わらない声色。それなのに…何故か怖くない。
「…は、はい…」
思わず頷いてしまった。
振り返ることが出来なくて、急ぎ足でドアを開けて外に出る。降りてから少し時間を空けてから発車した。私はそれをぼうっと眺めていた。
……どうして頷いたんだろう。
学園のアイドルと言っても過言では無い、朱雀の人達。非公式ファンクラブがあるぐらいの人気ぶり。
その一番人気の八神先輩が、笑ったり抱っこしてくれたり…なんて事されたとなればその人達から相当なお怒りを受けることになるだろう。