白雪姫は寵愛されている
何故なら、彼のような人が私みたいな人を知るはずないから。
だからきっと…同姓同名の誰かの事です。
私ではない…白藤千雪さんです…。
そう思うのには訳がある。
この辺りを統一し、仕切っている族がいた。
族の名前は、朱雀──────、
そう、今私の前にいる赤髪の彼は…、朱雀の総長、八神 仁。
彼こそが、あの有名な八神仁先輩なのだ。
私立青蘭学園の二年生。
私の一つ上の先輩。イケメンで高身長、そして頭も良くて喧嘩出来る。そんな格好いい先輩は男女共にどの学年でも話題の中心人物だった。
そんな先輩が…私のような地味子なんて知るわけがない。わざわざ調べられるほどの秘密も、美貌も持ち合わせていない。
だから、絶対に勘違いしてる。
それしか思いつかない…のに。
腕を離すどころか、ジロジロと足のつま先から頭のてっぺんまで見てくる。そのたびに冷や汗が出て止まらない。
…も、もしかして。借りた本の返却期限過ぎてたのがバレてしまった…?
気付いた時には遅かった。
返却期限が既に一日経っていた。
焦って返したのは昨日の話。
近道を走って図書館へ向かい、返却ボックスに入れた。
……もしかして、先輩は図書委員の方で。私が間違えたせいで…先生に怒られてしまったとかですか?だから…、私を…殴りに来た…のですか?
サァーと一気に青ざめていくのが自分で分かった。
相手は族のリーダーで喧嘩が強い先輩…。そんな人に殴られて、私は無事で居られるでしょうか?
ピクリと動いた先輩の手は私の顔の方へやって来る。
───────…っっ!
きっと殴られる。
弁解しようと口を開くが言葉が出ない。
怖くて、足がすくんで目尻に涙が溜まる。
今まで空気のような存在として生きてきた。”もう辛い思い”をしたくなかった、だからこう過ごしてきたのに。友達も作らないで居ようって決めた。怖かったから。
…それなのに……。