白雪姫は寵愛されている
「俺にもココア頂戴」
「え?」
両手で飲んでいたココア。
朔也くんの顔が近付いてマグカップに口を付ける。
言われるまま、されるままに傾けた。
今まで飲んだこと無かったのに…珍しいです。
一口飲んだ後で、おでこがぶつかる。
「俺は嘘つきが嫌いなんだ」
「っ、…うん。分かってるよ…」
ズキン、
「それでも嘘じゃないって言い切れるんだね?」
痛む胸を押し込んで、頷いた。
「そう…それなら良いんだ」
あはは、なんて笑い声がテレビから流れてくる。体を張ったお笑い芸人を見ても、ピクリとも笑わない朔也くん。
静かに。お互い喋らない。
聞こえてくるのはテレビの音だけ。
「白雪、」
私の方を向いた。
「そろそろ寝た方が良い。明日は白雪が弁当、作ってくれるんだろ?」
目が、笑ってない気がする。
「えっと…う、ん。そうだね」
なんとなく、そんな理由が聞けなくて、知らないふりでマグカップをテーブルの上に置いた。
「おやすみ朔也くん」
「おやすみ、いい夢を」
────ちゅ、
甘いリップ音。
おでこに感じるのは朔也くんの唇。
私はあまり覚えて無いけれど。
昔怖い夢を見た時に、朔也くんが「怖い夢が見なくなるおまじない」ってしてくれたらしい。ココアとは別の毎日の習慣。
「もう子供じゃないよ」
それに、私は眠り深いもの。悪い夢なんて見ないよ。だからそんな事しなくても大丈夫なのに。
「そうだね。でも、悪い夢を見たくないだろ?」
それは…そうだけど。
「ほら、白雪も」
指を差す、自分のおでこ。
「朔也くんも悪い夢見るの?」
「……ああ。今日は特に見そうだよ」
…やっぱり嫌な事、あったんだ。
でも私にはきっと教えてくれないから。
せめて、少しでも。
────良い夢が見られますように。
そんな思いを込めて、朔也くんのおでこにキスをした。