白雪姫は寵愛されている

───────カチッ、


時計の針が進む音と同時に鐘がなった。
ハッとして時計を見ると、予鈴の鐘だった。


「も、戻らないと…!」


本鈴じゃないことに安堵しつつも慌てて鞄を持つ。


「あ゛!!昼食いっぱぐれた!!」


颯太くんに言われ、私も思わず「あっ」と出てしまった。

そう言えば…そうでした。
色々あったから忘れてた。

ポケットを漁り、取り出したのはレモン味の飴。


「颯太くん。これじゃだけじゃ足りないと思うけど…良かったら」

「おぉ!ありがとな!白藤!」


飴玉だけど。口寂しいのは治ると思うから。


……お弁当、折角美味しく出来たんだけどなぁ。残念です。


制服の袖を引っ張られた。
吃驚して振り返ると、八神先輩がいた。


「…俺には?」

「え、っと…?」

「お、いいな。俺にも頂戴。千雪ちゃん」


あ、もしかして飴ですか?

同じ飴を取り出して、二人の手の平に乗せた。先輩達もお昼食べ損ねたんですね…私のせいですみません。


「ありがとう、千雪。大事に食べる」


大事って…昨日スーパーで買った季節遅れの売れ残りな飴なのに。

どうして微笑んで言うんだろう。どうして目を隠してる私の目を見て言ってくれるんだろう。

きっと八神先輩は、そんな私のも優しくしてくれるいい人なんだ。誰にでも優しい人…そう思うと少し胸がチクッとするのはなんでだろう。


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