白雪姫は寵愛されている
───────どうしてこんな綺麗なんだろう?
さっきまでの落書きだらけの机も。散乱していたゴミも、破かれた教科書なんかも…全て元通り。机は新品同様。何故か私の周りだけ埃一つ、塵一つ無し。新品の教科書と、私の字じゃない綺麗な字で書かれた授業ノート。
そしていつ席替えしたのか、私の隣の席には颯太くんがいた。これから五時間目の授業だと言うのに、何食わぬ顔で焼き肉弁当を頬張っていた。
この短時間で食べきれるとは思わないけれど。
「ん?ほぉしたぁ?」
「た…食べてからでいいよ」
…気のせいかな。クラス中の人が私によそよそしく感じる。
颯太くんの食べ終わるのを待って話を聞く。
「ああ、全員怖がってるんじゃね?」
「え?…誰に怖がるの?」
「仁さんと慶さんと、俺!」
「えっと…どういうこと?」
颯太くんはペットボトルのお茶を、一気に飲み干すと話を続けた。
「白藤は俺達朱雀の”お姫様”だからな!」
「お、おひめさま…?」
そ、それは…どういう意味…??
「白藤に手出したら、俺達が黙ってないって事だ!さっきの奴等、全員見せしめにしたしな!もう怖くて白藤にちょっかい出そうとしねーだろー!」
さっきの?…それは、あの動画撮っていた人達の事、かな。
思い出しただけで身震いした。
本当に、あれは運が良かったんだと思う。
もし変な事をされていた後だったら…わたし……。
「白藤、」
颯太くんが私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫。もうあんな事ぜってーねぇから。だから安心してくれ、な?」
震えてるの、分かったんだ。
「うん…ありがとう…。あの、所で…見せしめって、何をしたの?」
話題を変えようと笑顔で言うと、何故か黙り込む颯太くん。悩むような動作もしている。少しして「白藤には言えないやつ!」と叫びニカッと歯を見せて笑った。
…もしかして、私が怖がらないように言わないのかも。
「とにかく!これからは俺達から離れるなよ!いいな!」
「う、うん」
それで良し!なんて笑う颯太くん。中々に元気な様子に思わずこっちまで笑顔になってしまう。
ガサッ、
…あっ。そうだった制服。
チャイムが鳴る。
まだ食べ終わってないと嘆く颯太くんを諭して、急いでブレザーを羽織った。授業が終わったらワイシャツ着替え直そう、なんて考えながら教科書を取り出した。