白雪姫は寵愛されている
校門に着くと昨日と同じ黒い車があった。颯太くんはバイクだから、と言って駐輪所に向かう。
…また迷子にならなきゃいいけど。
車に乗り込むと先輩はシートベルトを着けてくれた。
「それぐらい一人でも出来ますよ…?」
「ダメだ。また逃げ出そうとしたら困る」
「に、にげません…」
車からの脱出は小説みたいにいかないと分かりましたから。冷静に考えてみれば、車から降りた後で後続車に轢かれてしまう可能性だってあります。
……あの時、八神先輩が居なければ今頃どうなっていたか。
「仁さんがそこまで心配するのは初めてですね」
運転席から声がした。
バックミラーに映るのは今朝のサングラスをかけた男性。少し怖そうな顔をしてるように思えたけど、口調は優しく、言葉遣いも丁寧な人だった。
見た目が怖くても、優しい人がいるって意味が分かったような気がする。
「そう、なんですか?」
前の座席を掴み、前のめりになる。でもすぐに腕を引かれ元の位置に戻る。先輩は「危ない」とだけ言って窓を見た。
「そうですよ…でも、これ以上はダメだね。仁さんに怒られそうだ」
怒る?
八神先輩が…?
頬杖を付き、じっと外を見る姿。それすらも格好いいと感じてしまった。