白雪姫は寵愛されている
「白雪はその友達に何か嫌な事でもしたの?」
「……わかり、ません…」
思い当たる節は無い。
今日初めて会った人だったから。
「トラウマがある、らしいの」
「そっか。なら、無理に仲良くならなくてもいいと思うよ」
そう、なのかな。
でも出来る事なら…、
「仲良く…せめて無視されないような関係にはなりたくて…」
────我儘だ。
久我さんには何の得も無い、私だけが抱く感情なのだろう。
「そう…それじゃあ、白雪は?」
朔也くんの手が私の髪を掻き上げた。
視界の先には何も遮らず、鮮明に映る顔。
「っ…さく、やく…、」
「俺の目を見るのも怖い?」
それは…、
「ご、めん…なさい」
目を伏せた。
「…白雪は誰かの目をちゃんと見れないだろう?そのトラウマは簡単には消えないのは、自分が良く知ってるんじゃないかな?」
───────今日、前髪上げてしまいました。
三人共私の方を見た。勿論チラチラと視線が合っていた。でもその時”怖い”って感じた?
「白雪?」
”千雪”
ハッとする。
今一瞬だけど、八神先輩が浮かんだ。
「…俺でもまだ怖い?」
朔也くんのその言葉がビクッとする。
分かってる。こんなの可笑しいって。だけど…どうしても、朔也くんでも目を見ることが出来ない。
「……っ、ごめんなさい」
抱き寄せられ、背中に手が回る。
驚く私の耳元で朔也くんが囁く。
「大丈夫だよ。白雪、分かってるから…でも、俺のこと、いつかちゃんと見てくれると嬉しい」
「う、ん。頑張るね…」
ズキン、
こんな事になって1年が過ぎた。それでも私は未だに朔也くんの目を見れない。
ちゅ、と音がした。おでこに触れた朔也くんの唇。
「いい子は寝る時間、だね」
見上げると、フッと笑みを浮かべている朔也くんがいる。
時計は夜の10時半だった。口の中に残る甘いココアの味。歯磨きして寝る…その行動がとても長く感じるのは、凄く眠いから。
「白雪…姫、みたいだね」
目元を擦られ、思わず瞑ってしまいそうになる瞼に活を入れる。
「おやすみ朔也くん」
「おやすみ。白雪」
そう言ってもう一度、おでこにキスをされた。