白雪姫は寵愛されている
本棚に囲まれていた。
正面にも真後ろにも。
古くなってしまった本を保管する本棚は、それ自体も古くなっていて、ささくれや釘が半分以上も出てしまっているような危険なものになっていた。
危険視されていたその場所は、張り紙が貼ってあり、大きく【注意!!】と書かれている。それは丁度、私の真後ろの本棚の事だ。
重心が後ろに動く。
無理だと思って目をぎゅっと強く瞑った。
痛いのは怖い。
でももう間に合わない───────。
っっ…?
痛くなかった。
「…なに、してるんですか」
私を受け止めたのは本でも錆びついた釘でもない。──────久我先輩の腕の中だった。
「あ、あの…ごめんなさ…」
「いいから早く退けてくれ」
慌てて退けると、少し震えている先輩がいた。
私の…せいで。
深々と頭を下げた。
「すみません…怖い思いをさせてしまって…!」
その症状は私が一番よく知ってるもの。私が先輩に触れたから。
「…っ、そう言えば好かれるとでも?知ったかぶりは迷惑なだけです」
「…本当、なんです。私……もトラウマが…ある、ので、」
「同情?それともただの同調ですか?そうすれば僕が靡くと?そうやって今までどれだけの媚を売って来たんですか?」
”あんたはそうやって、男に媚売ってんでしょ?”
「……ち、がう…んです…私は…」
ドクン、ドクン、
何度も大きな音で鳴る心臓。
「…同情……なんか、じゃ…なくて…」
”友達だと思ってたのに”
息をしないといけないのに。何故か上手く呼吸が出来ない。
ハッ…ハ…、
”千雪なんて大っ嫌い!!”
手に触れる指。
ビクッ、と体が反応した。
顔を上げると、そこには久我先輩がいた。
「…震えてる、」
深呼吸するように促され、言われた通りにする。
呼吸が少し楽になった気がした。
震えも大分収まってきた。
私、久我先輩にまた…触れてしまった。
「……ご、めんなさ…」
「謝らなくていいです、僕が悪かったので…本当の事だとは、思いませんでした」
触れているのに、先輩は何故か震えていなかった。