白雪姫は寵愛されている

「僕は片親でした。母親しかいません。…今は既に”元”が付く母親ですが。


父親は…僕が小学生の頃に死にました。

僕が生まれ、数年後に癌が見つかったそうです。それで死んだと叔父から聞いてます。


あの人は父を愛していた。


だから、死んだ時…発狂したんです。そして精神が狂いました。


普通の母親だったはずのあの人は、僕を”父親(旦那)”だと、思い込みました。


僕にはわかりませんでしたが、どうやら僕は父親と瓜二つだったようで…、思い込む材料としては十分だったみたいです。


その後は酷かったです。


小学生の僕を旦那だと思い込んだあの人は、夜な夜な僕の部屋に来ては誘ってくるんです。


小学生、相手にですよ?
おかしくて笑ってしまいますよね。


中学生にもなると、より一層、僕に面影を探して来ました。


僕の名前を呼ばれることが一度も無くなり、父親の名前でしか呼ばれなくなったんです。…僕の名前が昴だと言う事も、きっと忘れていたんでしょうね。


好物は父親の好んでいたもののみ与えられ、服装も全て父親が好みだったものしか着たことがありません。



外出する時は必ず手を繋ぐ、もしくは腕を組まれました。


そして僕も…父親になりきっていた。可笑しくなる前の母に戻ってくれると信じてしまっていたんです。…今となっては馬鹿な事をしたと思っていますが…、


……僕が中学三年になる頃、あの人は突然発狂しました。



目が覚めたように”違う”と叫ばれました。
僕は父じゃないと、気づいたんです。


あれだけ…、あれだけ僕を父と思っていたはずなのに…。

違うと分かっただけで僕を殺そうとしてきたんです」



先輩は黙って腕を捲った。そこにあるのは、痛々しい傷跡だった。



「…その時に刺されました。フォークでも人間の腕ぐらい一瞬で貫通出来るんですね。驚きました」



なんと声を掛けていいか分からず唇を噛む。そして、涙が出た。我慢していたのに、落ちてしまった。先輩はそれを見て首を傾げた。



「何故泣くんですか?僕は…あなたにとって無関係の人間ですよ?」


「確かに関係ありません。でも…、でも、」




今までずっと、先輩は───────、



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