白雪姫は寵愛されている
「せ、んぱ…い、!」
早い。歩くのが早すぎる。
強く握られて手首も痛い。
「あ、あの!…まって…、」
無言で歩く先輩。どれだけ話しかけても応答はない。
…今まで私のペースに合わせてくれてたんだ。
袖を掴んで歩く時も、抱えてくれた時もこんなに早くなかった。ゆっくり歩いてくれていた。でも、今は違う。歩く先輩と小走りの私。付いて行くのが精一杯。
「せんぱ…きゃ!?」
先輩の足に躓いた。
そのまま先輩に倒れる。
上を向くと背中だと思っていた体は、咄嗟に先輩が受け止めてくれたらしい、抱きしめてくれていた。
…まただ。
ドキドキする。
「…悪い、」
と、先輩は顔を逸らす。
…わたし、先輩を怒らせてしまったの?
一緒に昼食を食べなかったから?早く戻らなかったから?
風で少しだけ掻き分けられた前髪。先輩の顔が良く見える。”目を合わせるのが怖い”その時はそうは思わなかった。
「わたし…何かしましたか?」
「…違う、」
「それじゃあ、どうして怒ってるんですか…?」
「…怒ってない、」
「私…のこと、嫌いですか…?」
零れそうな涙を抑えるように顔を埋めた。
”嫌い”って言われたらどうしよう。
…嫌われたくない。どうしてこんな風に思うんだろう。昨日は自分から離れようとしたのに…先輩から離れたくない。
「違う!それはない、絶対」
背中に回された手が強くなった。
「……嫌だったから」
「やが、みせんぱい?」
小さく聞こえた声。
強く先輩が私を抱きしめる。
少し苦しい。
「…っ、せんぱ…、」
「昴のこと、名前で呼んでたのはなんでだ」
昴くんのこと?
「俺の事は、苗字で呼ぶくせに…。颯太は同級生だ。だからまだ許せた…でもあいつは違うだろ」
「そ、れは…、名前で呼んでほしいと言われたので…」
「…なら俺の事も名前で呼べ」
「な、名前ですか?」
「それと、先輩も付けるな」