白雪姫は寵愛されている
っっ……、



「さ、くやくんがまだ居ないと思って…ひ、ひとりで、三つ食べようと…思って…買いました…直ぐ帰ってくるつもりだったから…フォーク要らないって、言ったの……」



お盆の上に紅茶のカップを置く朔也くんの手が止まった。



「…ひとりで?」

「………うん」

「食べようとしたの?」

「……………う、ん」



そう言うと、朔也くんが吹き出した。


「あはは!そっか…ごめんね。俺が早く帰って来たから独り占め出来なかったんだね」

「う、うん…」

「チーズケーキじゃなくて果物のケーキが食べたくなったの?」

「…そう、です」

「それで三つも買っちゃったんだ?食いしん坊さんだなぁ」


そう言うと、頭を撫でてくれる朔也くん。
私はどうしても朔也くんの顔を見ることが出来ない。



「頑張って並んだんだ?」

「……うん」

「怖くなかった?」

「さ…朔也くんのワンピースがあったから…頑張れたの…」

「ふふ、やっぱり白雪には白がよく似合うよ。綺麗だ」



額にキスをくれる朔也くんにビクリと身体を揺らした。



「ありがとう…」



私は今、朔也くんに嘘をついた。
嘘が嫌いな朔也くんに。

…罪悪感で押し潰されそう。


ケーキを用意するね、という朔也くんに無理矢理笑顔を作って買い物袋も持ったまま脱衣所へ向かう。




「白雪、」



その時、声を掛けられた。



「箱の大きさ的に五個入りだと思うけど…もしかして何処かでつまみ食いしちゃった?」



指についたクリームを舐めとる朔也くんの目が何故かとても気味が悪くて。



「そ、そんな事…して、ないよ…」



私はそれだけ言って、足早にリビングを後にした。


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