偽りの恋人契約も秒で解除としましたが婚約した件
「他に理由がいるならお持ち帰りってことで」

笑えない冗談を言うタイプなのかもしれない。
フリーズする女性陣を察し血の気が引く思いでいる私とは真逆に、彼はご機嫌そうに私の背中をポンと押して「行こうか」と店を出ることを促した。


店を出てすぐ夜風を思い切り吸い込み、とてつもなく大きなため息が私の口からこぼれる。


「あれ?逃げたかったんじゃないの?」

「なんでついて来ちゃうんですか……」
「俺も逃げたかったから」

爽やかな笑顔で今井さんは言い切った。

「来たばかりのメインディッシュみたいな今井さんをお持ち帰りとか後で何言われるか……」
「いや、俺が理緒ちゃんをお持ち帰りしたんだから。そう言えばいいよ」
「人数合わせの女とメインディッシュが嘘でもくっついちゃダメだと思うんですけど!」

荒れ狂いそうな感情のやり場がなく、ありのままの思いを今井さんにぶつけてしまう。
今井さんはポカンとしたあと、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
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