偽りの恋人契約も秒で解除としましたが婚約した件
「人数合わせだったの?俺、理緒ちゃん好きだなと思って見てたけど?」
「そういうの今いらないです……」

先輩に何を言われるか、職場の居心地すら悪くなりそうな予感でいっぱいの私には、イケメンの甘いセリフも響かない。
最寄り駅に向かって歩き出すと、今井さんが慌てたように肩を並べてくる。

「すぐ逃げるくらいなら参加しないとかあるじゃないですか」
「付き合いもあって。それに、いつ逃げてもいいって約束だったから」
「それは……私もですけど」

飲み会での立ち位置は違うであろう今井さんが、まさかの同じ条件提示での参加だったことに急に親近感がわく。
同時に彼のことを責めすぎたかと反省もした。

でも——

「今井さんは彼女がいるとか言えばそもそも誘われない気がします」
「それは使えない。俺、嘘つくの下手だから。理緒ちゃんはそれ使わないの?」

「……嘘つくの、下手すぎて無理です」

正直に答えると、今井さんはどこか嬉しそうに笑った。
なんだか負けたような気がするのと同時に、さらに親近感がわいてしまう。
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