偽りの恋人契約も秒で解除としましたが婚約した件
「私を口説いてどうするつもりですか」
「結婚したい」

今井さんは即答して私をぎゅっと抱きしめ直した。
何が彼をそんな気持ちにさせたのかさっぱり見当がつかない。
私は、場の空気を乱してでも飲み会から帰宅を決めた女でもあるのにと、頭の中には『?』がいっぱいである。

「俺、好かれることはあっても好きになった子には振り向いてもらえたことなくて」

今井さんがポツンと呟いた。
モテるであろうに、自分の恋心が実ったことはないらしい。

「でも、もう結婚考えられる子としか付き合う気になれないし。結婚は自分が好きになった子としたい」
「私を好きになるのも、結婚考えるのも早すぎません?」
「理緒ちゃん見たとき、久し振りにときめいて。自分でもよくわからないけど、この子と結婚するって思った」

運命みたいな話としてはよく聞くけれど、私にはピンとこない。
けれどちょっとロマンティストな今井さんの腕の中はわりと居心地が良くて、突き飛ばすという選択肢が再びあらわれることもないまま、彼の話に耳を傾けている自分がいる。

「今井さんと婚約してもいいですよ」
< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop