虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
 最近ようやく婚約した相手は五十を過ぎた太った男で、頭髪は見るも無残だった。

 太っていてもまだらハゲでも清潔感があれば良いと思うのに、一度会ったことのあるその男は見るからに不潔そうで近寄ると臭かった。好色との噂で、下卑た目つきには見るものを嫌悪させるいやらしさがある。

 彼は魔族の紋章に見えるなど偶然であり迷信だと笑い、若い女が嫁になることのほうが重要そうだった。この痣を迷信と笑い飛ばす人間がむしろ人品卑しい者であることが皮肉に思えた。

 父マルセルムの事業がうまくいっておらず、彼女の結婚が新規融資の条件となっているらしい。

 最近は婚約破棄から始まる演劇が流行っていると噂に聞いたが、自分もそんな目に遭いたいと思ってしまう。

 正式に婚約しているし、セレスティーンに拒否権などない上に相手の男に婚約破棄の意志などないのだから、王子と結ばれる未来などありはしない。

 夢に出てくる彼に婚約のことを話したことがあった。彼はひどく憤り、婚約破棄させてやる、と宣言してくれてすごく嬉しかった。
 目が覚めたときには、一瞬の儚い喜びだったと虚しくなった。

 婚約した男は伯爵で王宮に勤めている。今回の夜会への招待も、彼との婚約が関係しているのかもしれない。

 初めての夜会だというのに、セレスティーンの心は暗く陰鬱に陰るばかりだった。




 眠りにつくと、すぐに夢は彼女の元を訪れた。
「今日はどんなことがあった?」
 咲き乱れる花の中、紫の髪の青年は穏やかに彼女に尋ねる。
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