虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「これを君に」
「綺麗な紫……」

「バイオレットサファイアだよ。我が国では婚約したら相手の髪や瞳の色のものを身に着けるのが慣習になっているんだ」
「婚約?」

 驚いて彼を見ると、彼は跪いてまっすぐにセレスティーンを見つめ、彼女の手を取った。

「俺と結婚してくれないか。一生そばにいてほしい」
「……うれしい」
 セレスティーンは彼の手をぎゅっと握り返す。

「さすが夢だわ。私の欲しい言葉を言ってくれるのね」
「夢じゃないんだけど」
 彼は不満そうに言う。

「だって、夢よ」
「夢じゃないってわかったら、ちゃんと承諾の返事をくれるね?」

「当然よ」
 セレスティーンは微笑して答えた。

「時期がくれば君に会いに行く。指輪はそのときに改めて。待っていてくれ」
 彼は立ち上がって彼女の頬に口づけ、そう言った。

 ふふっと笑って、セレスティーンは思い出から現実に戻る。
「彼と結婚なんて……ありえないことだわ」
 声に出して自分に言い聞かせ、メイド服に着替えた。
< 13 / 32 >

この作品をシェア

pagetop