虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「さっさと準備しなさい! 出発まであと三十分よ!」
「はい。あの、買っていただいたドレスは……」

「……どこへやったかしら」
「お母様、あれじゃないかしら」
 ティアリスが部屋の隅にぐちゃぐちゃにつくねられていた布を指さす。

「ああ、それね」
 メイドに拾わせ、セレスティーンに渡す。
 広げてみた彼女は、そのありさまに顔をひきつらせた。

 古着だった。それはいい。
 だが、元は真紅だっただろうそれは色あせ、あちこちにシミがあり、ほつれ、胸元は娼婦のように大きく開いていた。全体的に派手で下品で、とうてい令嬢が着るものではない。

「おい、早くしろ。先に馬車に行くぞ」
 マルセルムが顔を出し、めんどくさそうに催促する。

「このグズがまだ準備できてないのよ。早く準備なさい!」
「……はい」
 命令され、セレスティーンは悔しさに顔をゆがめて退室した。

 こんなドレスで、いったいどうしたらいいのか。恥をかきに行くだけになってしまう。
 いっそ行かないほうが。
 夢の中の彼は来てほしいと言っていたのに。

 あくまで夢の話だ。夢を真に受けて恥をかきにいくなんて。
 だけど、あれは絶対にただの夢じゃない。
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