虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
 うなだれ、膝をつくセレスティーンの耳からイヤリングがもぎ取られ、パールのネックレスがひきちぎられる。
 パールはばらばらと音を立てて散らばり、夢が覚めるように姿を消した。

「もう行きましょう、お母様」
「私たちは先に行くわ。これが招待状よ」
 エマニーズは封筒を地面に投げ捨てる。セレスティーンはそれを拾い上げ、すごすごと屋根裏部屋に戻った。

 慌ててついてきたタリアーナは、セレスティーンが渡されたドレスを見て顔をしかめた。かつては真っ赤であっただろうドレスは色あせ、まだらにピンクになっている。

「先ほどのドレスは奥様が用意したものじゃなかったんですね……。せめて前日に渡されていましたら、少しは繕うこともできましたのに」
 タリアーナは悔し気につぶやき、閃いた、とばかりに顔を輝かせる。

「ティアリス様のドレスを借りましょう。夜会の会場では引き裂いたり脱がせたりはさすがにできないでしょう」
「ダメよ、あなたが首をきられてしまうわ。首だけじゃすまないかもしれないし、私も家を追い出されてしまうかも」

「そう……ですね」
 止められたタリアーナはしょんぼりと同意した。

 とにかくも夜会に行くならこのドレスしかない。着てみるとサイズは大きくて、油断するとすぐに肩からずり落ちてしまいそうだった。
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