虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「本当に会えるなら……嬉しいわ」
 彼女は彼の胸に頬を添えてつぶやく。広く厚い胸はいつも彼女を温かな気持ちにさせてくれる。

 夢で彼がくれる幸せはいつも儚い。
 現実の自分はいつも惨めで……と思って彼女は思考を打ち切る。彼に会っている今は現実のことなど忘れていたい。

「信じてないんだ? 明後日は実りの月の最後の日、こちらとあちらの世界が重なる。必ず君に会いに行くよ。小さい頃に会ったきりだったからね。あちらで会えるのがうれしいよ」

 彼は最近、毎日のようにそう彼女に伝える。

「まるで魔族みたいなことを言うのね」

 実りの月の最終日は魔族の世界と人間の世界との扉が開き、魔族が人の世に現れると言う。そのため、人々はその日は魔族のようなかっこうをして、魔族に仲間だと錯覚させて危害を加えられないようにしたという伝統がある。和平を結んだ今は形を変え、仮装のお祭りとなって人々は楽しんでいる。

「俺が魔族だと嫌か?」
「そんなことないわ」
 紫の髪に黄金の瞳なんて、通常ではありえない色だ。彼が魔族だとしてもなんら不思議はなかった。

「あなたに夢ではなく会えるなんて……それが本当ならどんなに嬉しいか」
「本当に。そのときは君を俺の国に連れてくよ」

「……待ってるわ」
 セレスティーンは悲しく微笑した。

 ずっと彼と一緒にいられる。それが叶うならどんなに幸せだろう。
 小さい頃に会ったと彼は言うが、セレスティーンにそんな記憶はない。
 今の住む家から逃げ出したい。そんな気持ちが見せる夢なのだろうと思っていた。
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