虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「後ろにいらっしゃるのが殿下よ」
「留学で魔術の腕を上げて帰ってらしたのよね」
 ささやかれる会話に、夢はやはり夢だ、とセレスティーンは嘆息した。

「今宵はようこそ。どうぞお楽しみください。皆でダンスを!」
 国王が声を上げると、オーケストラが演奏を始めた。
 紳士淑女が手を取り合ってフロアの中央でダンスを始める。

 もう帰ろうか。
 そう思ってセレスティーンが柱の陰から出たときだった。

「あんた、そこに隠れてたの」
「よくそんなかっこうで来られたわね」
 嘲けりの声に振り向くと、ティアリスとエマニーズがいた。

 セレスティーンは答えられずに俯いた。あなたが買ったんじゃない、と内心で文句を言うが、口にできるわけがない。もし言おうものなら帰ってから激しい折檻が待っている。
 父が近くにいないのはほかの貴族と縁故を築くべく画策しているからだろう。

「これはこれは、ウィーニー夫人」
 男性の声がして、セレスティーンは体を強張らせた。

 会いたくない人がさらに現れた。
ドルファス・ゴードルフ、五十三歳の伯爵で、セレスティーンの婚約者。
「ご令嬢もご一緒ですか。お美しいですな」
 彼はティアリスを見てからセレスティーンを見て驚愕した。
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