虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
 娼婦と思われてしまった。セレスティーンは恥ずかしくてただうつむくことしかできない。

 そのときだった。
 ラッパの音が大きく響き渡り、オーケストラが音楽を中断した。

「アシュディウム魔術皇国の皇子、アーロン・ナイト・ワディンガム殿下、ご来臨!」
 大声とともに、ドアが開かれる。
 オーケストラが荘厳な入場曲を奏で始め、ほのかに輝く花びらが天井から舞い散った。

「まあ、どこから」
「綺麗! 輝いてますわ!」
 女性たちはうっとりと花びらを見つめ、手を伸ばす。

 セレスティーンも思わず手を伸ばした。触れるとそれにはなんの感触もなく、淡く溶けるように消えた。
 開かれたドアには先導する男性がおり、続いて紫の髪の男性が現れた。

 セレスティーンは息を呑んでその男性を見つめる。

 人とは思えないすさまじい美貌だった。二十代半ばほどのようで、凛とした気品が全身から漂う。紫の服に黒いコートを羽織っていて、それが彼の美しさをさらに際立てていた。

 あの人だ。夢に出てきたあの人。アーロンと呼ばれていた……そうだ、アーロン様だ!

 頭の中の霧が晴れたかのようにはっきりとその名が頭に浮かぶ。
 頭を下げた人たちの間を、堂々と彼は歩む。

 セレスティーンはただ呆然としてお辞儀も忘れて彼を見ていた。
 目が合うと、彼はにこっと笑顔を向けて歩き去る。
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