虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
 音楽に合わせ、ふたりはステップをふむ。
 彼のリードで、なんの迷いもなく安心して踊れた。
 少し現代の作法とは違っていたが、古風で素敵、と評された呟きが聞こえてきた。

 ダンスを終えてフロアの端へ向かうと、ティアリスとエマニーズがすかさず寄って来た。マルセルムも一緒だ。

「お会いできて光栄でございます、アーロン殿下」
「ああ」
 マルセルムが慇懃に頭を下げるが、アーロンはぞんざいに返事をしただけだった。

「とっても素敵なダンスでしたわ! ぜひ次は私と踊っていただけませんこと?」
 ティアリスは媚びるような目で彼を見る。

「断る」
 アーロンの即答に、信じられない、といった様子でエマニーズとティアリスは目を丸くする。

 ティアリスはいつも舞踏会ではダンスの申し込みが相次ぎ、もったいぶって相手を選んでいた。その自分が申し込んでいるというのに、断られるとは思ってもみなかったのだ。

「お前のような穢れた心の者には触れられたくない」
 おぞましいものを見るように、アーロンは吐き捨てる。

「それより、どうしてセレスティーンにプレゼントしたネックレスをお前がつけているのだ。ドワーフの長が作った逸品だと言うのに」
「『こんなものいらない!』って私に押しつけて来たんです!」
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